[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのはドキュメンタリー映画『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』(8月16日公開)です。
不動産ビジネスで大富豪になった一家が、ホワイトハウスより大きなベルサイユ宮殿のような邸宅を建設中、リーマンショックで財産を失ってしまう様を追いかけた作品。ザ・成金の彼らの生活はかなりズレていて「お金持ちなのにこんな生活しているの?」とギョギョギョ!なドキュメンタリーなのです。
【物語】
デヴィッド・シーゲルと妻ジャッキーは2500坪の土地に立つ大邸宅で子供8人と贅沢三昧の暮らしをしています。今シーゲル夫妻が夢中なのは、建設中の大邸宅。それはホワイトハウスの2倍のスケールで総工費100億円のアメリカ最大の大邸宅です。しかし、その建設中にリーマンショックでシーゲル夫妻は1800億円の資産家だったのに、1200億円の借金を抱えることになってしまいます。ベルサイユ宮殿を模した建築中の邸宅は売りに出しても売れず、金策の日々を送ることに……。
【金融危機が映画をより面白くした?】
『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』のグリーンフィールド監督は、シーゲル夫人のジャッキーと出逢い意気投合したことから、この映画のプロジェクトは進みました。
「ジャッキーはフレンドリーで大胆さとユーモアさを持ち合わせた女性です。そして彼女の家族を撮影するために私をフロリタの邸宅に招待してくれたのです。そこは高価な物に囲まれていながら、ぬくもりに溢れていて、デヴィッドもジャッキーも控えめで謙虚な嗜好を持ち合わせた人たちでした」
と監督はおっしゃっていますが、このコメント、ブラックジョークかと思いましたよ。この映画を見ると、シーゲル夫妻、控えめで謙虚な嗜好の人柄には見えません。ベルサイユ宮殿みたいな家をと米国最大の邸宅を建設しようとする人ですからね。ただフレンドリーで人好きのする夫婦だったことはよくわかります。
「金融危機で野心を阻まれ、誰も予想しなかった方向に人生がそれていったとき、彼らはそれでもこのプロジェクトに関わり続け、私が彼らの旅を記録することを許してくれたのです」
実はこの映画の魅力は、お金持ちの成功物語でも、お金持ちの転落のプロセスでもありません。シーゲル夫妻のキャラクターが実に面白いから見入ってしまうのです。この夫妻のトンチンカンぶりがもう凄いのですよ。
【犬のうんちいっぱいの大邸宅?】
デヴィッド・シーゲル曰く「ジャッキーは物を集めるのが好きなんだ」と言うように、確かにこの奥さん、気に入った物はたくさん手にしたい人のようです。洋服や靴やバッグはデパート並にありますし、子供のオモチャもいっぱい、ペットもたくさん飼っています。子供も8人いますしね(ひとりは姪っ子)。
しかし、物に溢れた家はグチャグチャです。廊下に物があふれ、犬はそこらにウンチをし、中にはゴキブリを食べそうになっている犬も!! 外から見ると素敵な大邸宅ですが、中は騒然、びっくりですよ。でもその汚さをジャッキーは何とも思っていないんですね。でも、自分はお直ししまくり、美を維持しようとしていて、どこかネジが飛んでいるような感じなのです。
一方ダンナのデヴィッドは、ガムシャラに働いてきたんだから、いい想いして当然だと思っています。しかし、貧乏人から有り金を吸い取って成功した人です。成功しているときはジャッキーとラブラブですが、リーマンショック以降、ジャッキーが懸命に夫につくしてもキスさえしないくらい冷たくなります。子供に「パパは綺麗な人が好きなだけ」とそっけなく核心を突かれたりして。電気つけっぱなしだったと大激怒するなど、本質は器の小さな男だなって感じです。
【意外と強い家族愛!】
突飛なキャラクターのシーゲル夫妻ですが、微笑ましいのはリーマンショックで一家が崩壊してもおかしくない状態なのに、家族の絆はしっかりあるところです。おそらくジャッキーの愛情の深さがこのシーゲルファミリーの要です。生活はだらしない彼女だけれど、頭はキレるし、情が深いのです。家族のピンチをなんとかしなくちゃと、夫の誕生日に手料理を作ったり、安いスーパーで買い物をしたり(結局余計な物を買いすぎちゃうんですが……)私物を売ったりと奮闘します。金の切れ目が縁の切れ目という女じゃないんですよ。そこが素敵だし、あの生命力はすごい!くじけませんからね、成金の底力をジャッキーに見た感じがしました。
大金持ちの私生活と転落していく様を見る……かなりイジワルなドキュメンタリーですが、事実は小説より奇なり、成金ファミリーの素顔と私生活は本当に面白いですよ。
執筆=斎藤 香(C)Pouch
『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』
2014年8月16日より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
監督:ローレン・グリーンフィールド
(C)2012 Queen of Versailles, LLC. All rights reserved.
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