【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは北野武監督作『首』(2023年11月23日公開)明智光秀が謀反を起こして織田信長を襲撃した “本能寺の変” を北野監督が自分の世界に引き寄せて映画化し、ビートたけしとして主演もしています。

北野監督流の “本能寺の変” はどんな映画になっているのでしょうか? というわけで公開初日に観てきました!

【物語】

天下統一のために激戦を繰り広げる織田信長(加瀬亮さん)。そんな中、家臣の荒木村重(遠藤憲一さん)が反乱を起こして姿をくらますのです。そこで信長は、羽柴秀吉、明智光秀など家臣を集めて、村重を探してきた者に自分の跡目を継がせると言います。

秀吉、光秀は家来とともに捜索へ向かい、村重を捕らえます。しかし、信長の跡継ぎになれるというのに村重を差し出さずに匿うことに。

そう、実は光秀と村重は愛し合っていたのです……!

【狂気の織田信長が怖すぎる!】

北野監督が “本能寺の変” をどう描くんだろうと思ったら、やっぱりバイオレンス炸裂でした。

「泣かぬなら殺してしまえホトトギス」が有名な信長を演じた加瀬亮さんが特にすごかった!

キレやすい俺様キャラなのはわかっていましたが、本作の信長は、これまで何度も映画化されてきた織田信長の作品の中でも最高のブチ切れキャラ! もはや狂った暴君にしか見えません。

特に恐怖だったのは、刀の先におまんじゅうを刺して、村重に「食え!」と迫り、村重が口にくわえると、その刀をぐりぐり回して口の奥に突っ込んでいく場面。村重の口の中は血で真っ赤だし、観ているこちらにも痛みが伝わってきて、思わず目を伏せちゃいましたよ。

加瀬さんが大熱演で「こんな加瀬くん見たことない」ってくらい凄みがありました。

【この作品でBLを見るとは】

冒頭で強烈なバイオレンスを見せられ、戦国時代の『アウトレイジ』(北野監督のヤクザ映画)のようだと思っていたのですが、明智光秀と荒木村重が隠れて愛しあっていたという展開にはビックリ。まさかこの作品でBL世界を見ることになるとは! 

あの時代に男色があったことは以前から言われていましたが、光秀と村重、けっこういいお年をしてますし、光秀役の西島秀俊さんと村重役の遠藤憲一さんが好きだの何だの言っている姿は「一体何を見せられているのだろう」と。

でも男たちが勢力争いをしている中で、村重は闘いよりも恋なのか。身を守るためにそうしているのか……と思いつつ、村重が乙女に見えました。

遠藤憲一さんが西島秀俊さんを見つめる一途な瞳が忘れられません!

【ビートたけしとキム兄が笑いのポイント】

そして本作は笑える要素も含んでいるのも意外でした。

たとえば、元甲賀忍者の芸人というプロフィールをもつ曽呂利新左衛門を木村祐一さんが演じているのですが、もうキム兄のまま。

軽妙なトークが秀吉に気に入られ、その懐に入っていきます。ギャグを連発するような笑いではなく、思わずニヤニヤしてしまうような笑いが強烈なバイオレンスの合間にちょこちょこ挟まされているんですよ。

特にいつも一緒の秀吉、弟の羽柴秀長、黒田官兵衛のシーンは、どこかゆるさがあり、後半は秀吉が秀長に無茶振りをするなど「これってアドリブ?」みたいなやり取りも。

秀長を演じる大森南朋さんが「兄じゃ、それは〜」とアタフタと対応していく姿が可笑しくて……。本作には、北野監督の遊び心が見え隠れしていましたね。

【北野流エンタメ時代劇として観たい】

天下を取るためには、敵の「首」を討ち取ることが必要。本作はその首をかけた闘いを描いており、暴力シーンは痛みを伴う残酷さです。しかし光秀と村重の愛や笑いも盛り込み、北野流エンタメ時代劇として楽しめる作品に仕上がっていると感じました。

北野流 “本能寺の変” として楽しむもよし、役者の熱演に注目するもよし。いろいろな見方ができるのではないかと。

老若男女、楽しめる作品だと思います!

執筆:斎藤 香(c)pouch
Pouch:©︎2023 KADOKAWA ©︎T.N GON Co.,Ltd.

『首』(2023年11月23日より全国ロードショー)
原作:北野武「首」(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督・脚本:北野武
出演:ビートたけし
西島秀俊 加瀬亮 中村獅童
木村祐一 遠藤憲一 勝村政信 寺島進 桐谷健太
浅野忠信 大森南朋
六平直政 大竹まこと 津田寛治 荒川良々 寛一郎 副島淳
小林薫 岸部一徳