[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回のピックアップは、3月24日から公開される『マリリン 7日間の恋』。マリリン・モンローを演じたミシェル・ウイリアムズがアカデミー主演女優賞候補になったこの話題作、ベースになっているのは2冊の本です。

映画でマリリンの相手役にもなっているコリン・クラークが執筆した「My Week with Marilyn」と「The Prince, The Showgirl and Me」。映画のタイトル『マリリン 7日間の恋』を想像すると「当時アーサー・ミラーと結婚していたのに、不倫か?暴露映画か?」と思われますが、まったく違います。

本作はいちばん精神的に微妙な時期にあったマリリン・モンローを綴った映画です。この頃すでに睡眠薬など薬を服用し、アルコール依存の傾向もあった彼女は、現場に遅刻してくることや部屋から出てこなくてスタッフを慌てさせることなどありましたが、すべてワガママではなく病気だったのです。そんな彼女を真摯に支えたのがコリン・クラーク。信頼と淡い思いに彩られた関係は美しく、マリリンの情緒不安定な心を癒していくプロセスは心温まること必至。仕事疲れのOLさんなど「私もコリンと出逢いたい!」ときっと思うでしょう。

でもこの映画、もうひとつ興味深いのは、マリリンの危うい精神を刺激する芝居そのものを、映画の製作現場を通して描いていることです。

マリリンにとっては挑戦でもあった英国で行われた『王様と踊り子』の撮影。サー・ローレンス・オリビエは英国の伝統的な芝居を重要視するけれど、マリリンはメソッド・アクティングに傾倒し、そこでオリビエと対立してしまったのです。演じる側の葛藤が描かれている映画は珍しく「裏側でこんなバトルがあったとは!」と驚きです。

マリリンが傾倒していたメソッド・アクティング。彼女の先生はリー・ストラスバーグという指導者で、個人の体験を芝居に取り入れ、よりリアルに演技することを提唱していたそうです。劇中マリリンが「演じる役の気持ちがわからない、理解できない」と言ってオリビエを困らせる場面があるのですが、彼女は役をリアルに感じることができないと芝居に入れないタイプだったのですね。役作りに時間がかかるのは、役を自分に取り入れ、理解を深める時間が必要だったという……。

お互い芝居へのアプローチの方法がまったく違ったため、ガチなバトルに発展していきました。完成した映画を見て、オリビエは彼女の天性の才能を認めますが、この映画へのチャレンジがマリリンの精神を追いつめてしまったのかも……と思うと少し胸が痛いです。

それにしてもミシェル・ウイリアムズのマリリンにはビックリです。正直、映画見るまで「顔、似てないじゃん」と思っていましたが、映画での彼女はマリリンの魂を蘇らせたような素晴らしさです。マリリン・モンローの現役時代は知りませんが、彼女の賢さ、壊れやすさ、とまどいなどがスクリーンを通して胸に迫って……。アカデミー主演女優賞候補になったのも納得だし、受賞してもよかったんじゃないの? と思うほど!

この映画を見たあと『王子と踊り子』をはじめ、マリリン・モンロー主演作を見たくなること絶対です。没後50年、再びマリリン・ブームがやってくるかもしれません!

(映画ライター=斎藤 香


『マリリン 7日間の恋』
3月24日公開
監督: サイモン・カーティス
出演: ミシェル・ウィリアムズ、ケネス・ブラナー、エディ・レッドメイン、ドミニク・クーパー、ジュリア・オーモンド、ゾー・ワナメイカー、エマ・ワトソン、ジュディ・デンチ
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