『竹岡式ラーメン』の取材を終えて、のんびり東京に戻ろうと思っていところに電話が。「どうせなら千葉3大地ラーメンをもうひとつも取材してきて」by編集長! いろいろたっぷり経費で請求してやる、覚悟しておけ! なんてブツブツ言いながらひとり房総半島を南下していったのでした。
目指すは勝浦市。街をあげて売り出し中の『勝浦タンタンメン』のお膝元であります。名高い太平洋に面した港町であり、カツオやアジが美味しいことでも有名です。うーん。お魚食べたいなあ。どうしよう。
【勝浦タンタンメン・基礎知識】
さて、ひとつのお店の個性が評判になった『竹岡式』や『アリランラーメン』と違い、地域全体で愛され育まれてきた『勝浦タンタンメン』略して「勝タン」には、以下のような特徴があります。
・スープは鶏ガラベースの醤油味(例外あり)+多めのラー油
・具は地元産のタマネギとひき肉、にんにくをしっかり炒めたもの
・ねりゴマは入らないよ
つまり、通常の「担担麺」とはまるで別の、独特な辛味ラーメンということですね。もともとは、仕事を終えた漁師さんや海女さんが海で冷えた体を温められるように、と考案されたもの。創業昭和29年の『江ざわ』(鴨川市に移転)がその元祖で、現在勝浦市内にはこの「勝タン」を出すお店が40以上あるそうです。さらに詳しくは『勝浦タンタンメン』公式サイトでどうぞ!
上の画像は公式サイトのガイドマップ。確かにお店がたくさんあって迷いそう!
【お店えらびのコツ】
……と、ここに来て、ちょっとした不安が頭をよぎる。「街をあげてやっている飲食メニュー」って、ハズレが多いもの! 記者の出身地である札幌でも「スープカレー」ってのが一時期流行ったけど、ひっどい店多いからね!(美味しい店も多いけどね)
どうしてそうなるかっていうと、「地域でソレを出すことになったからって理由だけでそのメニューを出す店」があるから。そういう雑な店にあたらないように、きちんと調べないといけないのです。「勝タン」は「勝浦タンタンメン船団」という組合を作っているので、クオリティを保つ努力をしていると思われる。だから、まだ信用できるけれど。
こういう場合に選ぶべきお店は、
1)パイオニア的存在、2)定評のあるお店、3)地元の人に評判のいいお店
の順なのだと人は言う。ちなみに「地元」が3番目なのは、「よそ者とその土地の人の好みが同じとは限らない」からだとか。
【勝タンお店選び・煉獄編】
先述の地域グルメ店えらびの法則でいくと、1)は鴨川市の『江ざわ』だ……けどもう勝浦に来ちゃったからパスしよう(すみません……)。で、2)だけれど、どうやら市街地から10キロほど山あいに入ったところにある『はらだ(原田商店)』が「勝タンといえばココ」というくらいに人気のようだ。
もちろんおいしいということが人気の理由のようだけど、「派手」「行きづらさが半端じゃない」ことも評判の理由になっているらしい。カーナビに店名を入力すると、すぐに場所が出てきた。さすが評判のお店! でもずいぶん山の中だね。
勝浦市街から国道297号線、通称大多喜街道を山側へ。杉野集落を過ぎて左へ、ええ? うわーなんか通り過ぎたっぽいbyカーナビ! Uターンしてもういちど、うわーまた通り過ぎた!
なんてハメになってしまったほど、入り口が分かりづらいのです。看板もナシ。目印は「地元の消防団の倉庫」! なんだそりゃ! わざとなの!?
そんなふうにしてたどりついた念願の『はらだ』を、ご覧あれ!
ノーーーー! まさかの臨時休業! なんたる不運!
【勝タンお店選び・天国編】
失意の中、勝浦市街に戻り、聞き込みを開始。3)の「地元に評判のお店」を探すのだ! コンビニの店員さんにウーロン茶買いながらたずねるなどした結果、『いしい』2票、『杉野屋』1票、『しんでん』1票(「俺食べない」1票)。ウーロン茶もたくさん手に入ったよ! とまあそんなわけで、港近くにある『御食事処 いしい』にお邪魔することに。
『御食事処 いしい』は、勝浦市街の奥、勝浦漁港の守護神たる遠見崎神社のふもとに位置するとっても小さなお店。今でこそ「勝タン」のおかげで観光客が来るようになったけれど、もともとは漁師さんたちのための食堂です。だから漁師さんたちが海から帰ってくる朝7時から営業開始、みなさん朝からお酒を飲んで盛り上がっていたりします。いかにも田舎に来たって感じがする、とってもいい雰囲気!
テーブルふたつとカウンターで満杯になる店内……奥には、部屋だったところを改装したと思われる小上がりが。
注文はもちろんタンタンメン。しばらく待って、出てきました!
自家製ラー油を使っているというだけあり、ラー油の色が黒め(よくある真っ赤なやつは、唐辛子ではなくパプリカの色だよ)。炒めタマネギ以外に、スライス生タマネギが載ってるのもうれしい! さーいただきましょう!
まっすぐでふつうの太さの麺はさほど特徴なし。この麺をすすると……ラー油のピッとくる辛さが麺に絡んで快感!
スープそれ自体はかなりあっさりしているけれど、炒めタマネギやニンニク、ひき肉の具のうまみと甘みが溶け込んでいてなかなか奥深い。
注文したままだとラー油の量はそこまで多くはない模様。ただテーブルには大きな容器に入った自家製ラー油が「たくさん入れてね!」とばかりに置いてあるので、好きなだけ追加可能。
辛いもの大好きな記者は、ここぞとばかりにドカドカ追加。思いっきりむせかえっておりました。でも天国♪ ラー油ラーメンと聞いたときには「おいおい油がウリかよ」と少し引き気味だったけれど、辛いのにやさしい1杯に深く感動。あっさり完食したのでした。もともと海の衆の「お気遣いラーメン」だったんだもの、そりゃーやさしい味だよね。
【『いしい』をおすすめする、もうふたつの理由】
でもね、がんばって勝浦まで来て、ラーメンだけを食べて帰るのはあまりにあまりだ、さみしいよ。やっぱり漁師町、お魚食べて帰りたい! うーむ、いまいち勝浦タンタンメンがメジャーになりきれない理由ってこれじゃないだろうか。
そんな魚への想いをかなえてくれる店こそが、この『いしい』なのです。あくまで「勝タン」の置いてある食堂なので、お魚メニューは超充実! 地魚がおいしく味わえる! 上で名前が挙がったようなラーメン専門店や中華料理店じゃ、こうはいきません。
『いしい』の店先にはいけすというか金魚の住んでそうな水槽があって、アジが泳いでいます。オーダーするとおばちゃんが一生懸命アミですくって、お造りにしてくれます。この日はアジは残念ながら入荷なし、そのかわりおいしいカツオがあるというので速攻オーダー。あまりのうまさに感涙! 思わずノンアルコールビール頼んじゃいました。
ラーメン専門店じゃなく食堂だっていうなら、ラーメンのクオリティが低いんじゃない? なんて疑問もわきますよね。ところがどっこい! このお店、「勝タン」のパイオニア『江ざわ』から直々に作り方を伝授されたという、正真正銘の勝タン直系なのです。それゆえ、今人気の「ラー油が真っ赤っか」「ラー油の層がブ厚い」という派手派手なのとは一線を画した昔ながらの「勝タン」を出しているというわけ。ブ厚いラー油層が欲しいなら卓上のを好きなだけどうぞ! という姿勢もすがすがしい。
漁師さんたちが愛し続けた地ラーメンと、そんな漁師さんがとってくるお魚。その両方を味わえる『お食事処 いしい』、超オススメです。明日もきっと、早朝からやってますよ!
※すごく小さなお店なので駐車場はナシ。無料の市営駐車場を利用しましょう。
(取材、写真、文=纐纈タルコ)
▼『はらだ』の勝浦タンタンメンはこんな感じ(写真提供=HMD氏)。スゴい油の量。そのわりに辛くないんだそうな
▼国道沿いには、ニューウェーブなお店も登場している。魚料理やさんが運営するここは、スープに豚骨を使うなど、勝タンの幅を広げる味づくりを模索している
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