【映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します】
今回ピックアップするのは、5月4日公開のドキュメンタリー『飯舘村 放射能と帰村』。飯舘村とは、福島第一原子力発電所事故により、全村避難とされた村です。原発から30キロ以上も離れているのに、風向きや降雪、降雨の影響で、大量の放射能が村に降り注ぎ、飯舘村の人々も故郷を追われる羽目になりました。土井敏邦監督は、故郷を追われた飯舘村の人々に密着取材。
事故から1カ月も遅れて政府から計画的避難区域とされたことで、人々が負った精神的な傷、今なお消えない不安、政府への怒りをインタビューと映像とともに浮彫りにしていきます。
映画は二部構成“第一部・家族” は、酪農や農業を生業としてきた二組の家族が登場します。酪農や農業を捨てて、父親も息子も慣れない仕事を一生懸命。ストレスもたまるけれど、「いつかは家族みんなで村に戻りたい!」との願いを語ります。
もうひと家族は、バラバラに生活しているけれど、いつかは息子家族と同居したいと熱く語る父親と正反対の考えを持った母親が登場。この夫婦を見ていると、やはり男性はどんな時でも夢を見ずにはいられず、女性は現実的なのだな……と感じずにはいられません。いずれの家族も震災と原発事故によって、人生の歯車が狂ってしまった人たち。それぞれの想いを胸に必死に生きる姿は、家族とは何かを改めて考えさせられます。
記者がいちばん涙をこぼしたのは“第二部・除染” の放射能の恐怖を語る若い母親たちのインタビューです。すぐに避難できなかったばかりに、我が子の被爆を恐れる彼女たち。避難場所ではいじめにあい、将来、自分の子供たちが結婚するとき「飯舘村出身だから結婚できないのでは? 子供を産めないのでは?」と悩み苦しむ若い母親たちの言葉には、胸が震えました。原発事故の傷は、彼女たちと子供たちの中で、これからも永遠に続くのです……。
そして怒りを覚えるのは、「除染、除染」と強調する政府。「帰村の基準値20ミリシーベルト/年」と言うが、その根拠が曖昧。説明会で村の人々に突っ込まれると、そこまでまだわからないという答え。そして専門家の見解は“除染を強調し、大丈夫だと信じさせることで、動き出す原発の再稼働と原子力産業が狙い” と語ります。つまりは除染をすることで大きなお金が動いている……と。飯舘村はチェルノブイリの何倍もの放射線量。ならば立ち入り禁止にしなければいけないのでは? そんな疑問も持たずにはいられない。
震災や原発事故は決して忘れてはいけないこと。避難しても、今なお苦しみ続ける人々の声、顔、生活を知ることは、私たちが生きる現実を知ること。自分たちの人生にも大きな影響を与える出来事としてドキュメンタリー『飯舘村 放射能と帰村』を見てほしい。この映画は、今の日本の現実を映し出しているのです。
(映画ライター=斎藤香)
『飯舘村 放射能と帰村』
2013年5月4日公開
監督・製作・撮影・編集:土井敏邦
題字:菅原文太
(C)Doi Toshikuni
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]
コメントをどうぞ