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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞ほか、世界の映画祭で外国語映画賞を最多15冠受賞したシニカルなコメディ『フレンチアルプスで起きたこと』です。

仲のいいスウェーデン人一家が、バカンスで訪れたフレンチアルプスで遭遇した雪崩。それをきっかけに、家族間の空気が微妙なことに……。他人事ではない共感を生むこの作品。さて、フレンチアルプスで起きたこととは?

【物語】

フレンチアルプスの高級リゾートに5日間のスキー旅行に来たスウェーデン人一家。ビジネスマンのトマス(ヨハネス・バー・クンケ)は家族サービスに張り切っています。妻のエバ(リーサ・ロブン・コングスリ)と息子と娘も楽しそう! 

バカンス2日目、眺めのいいテラスレストランでランチ中の家族をアクシデントが襲います。雪崩が発生したのです。これはスキー場の安全のために人工的に起こした雪崩でしたが、予想外に大きくレストランを襲います。トマスの子供たちは悲鳴をあげ、エバは子供を抱っこして。しかし、そのときトマスはもうそこにはいなかったのです……。

【緊急事態に思いがけない行動をとる】

映画『フレンチアルプスで起きたこと』は、スウェーデン人のリューベン・オストルンド監督の友人のエピソードが発端だそうです。

「あるスウェーデン人のカップル(監督の友人)がラテンアメリカを旅行したとき、拳銃を持った男が現れ、発砲したのです。とっさに夫は逃げ隠れ、妻は置き去りにされました。彼等は無事帰国しましたが、彼女は酔うと必ずこの話をするそうです」

まさにこの映画の別バージョンみたいな話です。このエピソードがオストルンド監督の想像力を刺激しました。

「似たようなケースを調べると、生死にかかわる大惨事に見舞われた生存カップルの多くは離婚し、また生死がかかったアクシデントに遭遇すると、男性は女性に比べると、逃げ出して自分を守る傾向があるということがわかりました」

思わず自分の彼氏をマジマジと見て、「アンタならどうする?」と真顔で聞いてみたくなりますね。口では「逃げるなんてありえね~」と言っても、実際はわからない。トマスみたいに自分だけサッサと逃げる可能性もあるのです。人間の本音って、こういう究極の事態に遭遇したときに出るものなのだなあというのが、この映画を見るとよくわかります。

【夫にガッカリした妻はどうする?】

「みんな無事でよかったね」という雰囲気を出すトマスですが、実は自分だけ逃げてしまったことでバツの悪さMAXです。妻と子供がトマスに抱いていた信頼は崩れ「そんな男だったのか」というガッカリ感が漂います。

それにしても、浮気とかと違って、こういう場合は対処が難しい。「ダンナも悪いと思っているようだけど、でもあっさり許せないよね」みたいなモヤモヤ感。夫婦はそれぞれ自分を納得させるために、リゾートホテルで出会ったカップルや、ひとり旅をしていた女性などと会話をして、居心地の悪い思いをなんとかしようと格闘します。この映画、トマスの情けなさにニヤニヤしつつも、ついつい「自分はどうするだろう」と考えてしまうのです。

【男の役割、女の役割】

オストルンド監督は、夫婦や家族の役割についてこう語っています。

「無意識だと思いますが、ほとんどの人が母親は毎日子供の世話をするのが当たり前だと思い、父親は危険なときには家族を守るために立ち上がると思っています。しかし、男性が家族を守るために立ち上がるケースは稀です。この家族のような西洋の中流階級の人々は、肉体的な脅威にさらされることが多くないからです。それでも人は男が家族を守ることを期待するのです」

だから突然アクシデントが起こると、自分の役割が頭から吹っ飛んでしまうのですね。でも人間は過ちを犯します。後半、エバもトマスとはまた違った形で判断を誤るのです。

失敗して、立て直して、失敗して、立て直して……。人生ってそんな風に続いていくのかもしれないなあ……というのがわかる映画『フレンチアルプスで起きたこと』。笑って考えて、なんとなくホっとする……そんな不思議な引力のある作品です。

執筆=斎藤 香(C)Pouch

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『フレンチアルプスで起きたこと』
2014年7月4日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
監督:リューベン・オストルンド
出演:ヨハネス・バー・クンケ、リーサ・ロブン・コングスリ、クリストファー・ヒヴュ、クララ・ヴェッテルグレンほか
(C)Fredrik Wenzel

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