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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、ダメ親父たちが人生を切り開く姿を描いた人生エンターテインメント『人生はマラソンだ!』(6月21日公開)です。

オランダ・ロッテルダムを舞台にメタボなイケてないオッサンたちが「オラの人生このままじゃ終われねえ!」と立ち上がる物語。「え~オッサンの話~?」と女子的には一瞬、腰が引けるかもしれませんが、これはオッサンだけの話じゃない。老若男女誰にでもあてはまるお話しです。だって人生を描いているのだから、生きている人、みんなが理解できるし、共感できるし、感動できる映画なのです。

【物語】

ロッテルダムの自動車修理工場営むギーア(ステファン・デ・ワレ)。従業員は昔からの仲間たちのニコ(マルセル・ヘンセマ)レオ(マルティン・ヴァン・ワールデンベルフ)キース(フランク・ラマース)とエジプト系移民の青年ユース(ミムン・オアイッサ)。仕事中なのに、缶ビール片手にカードゲームしたりしてノンキです。しかし実は彼ら、それぞれ問題を抱えていました。

まずギーアは自動車修理工場が経営が厳しい上に、家では一人息子とわかりあえずに悩んでいます。レオは赤ん坊を置いて遊びに行ってしまう妻に困り果てており、キースは敬虔なクリスチャンの妻に振り回され……。そんな中、ギーアの工場のピンチを知ったレオたちは、スポンサーを探して広告を胸にマラソンレースに出て「全員完走できたらスポンサーに借金を肩代わりしてもらう。ダメだったら工場を手放す」と決めて臨むのですが……。

【人生の大ピンチに立ち向かう姿に感動!】

ロクに仕事もせずに工場で遊んでいる風なオッサンたちは一見カッコ悪い軍団です。ところが彼らはそれぞれ悩みを抱えていて、工場でビール片手にカードをするのは唯一の安らぎの場なのですね。誰にでもそういう場ってあるでしょう。女子高生なら学校帰りにファーストフードでしゃべったり、OLは給湯室で噂話に高じたり、仕事の後に行きつけのお店で飲んだり……。

そんな風に仲間とフっと息をつける場所。オッサンたちにとっては、それがギーアの工場なのですよ。その工場を失うということは、彼らにとってはオアシスを失うこと!そりゃ必死に守らなければと思うでしょう。そして彼らは一致団結してマラソンランナーとして頑張る決意をするのです。まるで部活にのめり込む中学生みたいになってゆくオッサンたちを見ていると、なんかもう一緒に走ってもいいかも?みたいな気持ちになってくるんですよね。

【CM界のトップがゼロから学んで監督デビュー】

この映画を演出したディーデリック・コーパル監督は本作がデビュー作ですが、デビューとは思えないです。登場人物は多いのにそれぞれしっかりキャラ立ちしているし、可笑しみがあれば哀愁もある、そして最後には泣かせるんですよ。実はコーパル監督、CM界では超売れっ子で、アップル、アディダス、ハイネケンなどのクライアントを持っている大手エージェンシーの責任者。すでに大成功を収めていたのです。その彼が映画監督デビューしたのは、成功した途端、クリエイティブな仕事ができなくなったからだそうです。

「会社は大きくなり、私は責任者としてクライアントのサポートなどクリエイティブな仕事から離れていきました。そして私は自分には挑戦が必要だということに気付いたのです。私は会社の持ち株を売り、脚本の学校で学び、執筆を進めていたときに、この映画の脚本と出会ったのです」

地位も財産も手に入り、一生安泰の人生だったのに、再びゼロからスタートしたコーパル監督。人生をやり直そうとする監督の生き方は、ちょっとこの映画のギーアたちの姿と重なります。監督は一度人生をリセットして、再び走り出したということですからね。

【勇気をくれる!オッサンたちのきらめき】

年を重ねていくと、新しいことに挑戦するのに躊躇してしまうことは多いです。「もう年だし」とか「そんな元気ないよ~」とかつい口から出てしまうでしょう。でも様々な経験を積んだ大人だからこそ、新しい挑戦ができるということもあるのです。

10代、20代のときの挑戦とは違う、年を重ねたときの挑戦は達成感がハンパないということがこの映画のオッサンたちを見るとよくわかる。そして支えてくれる人たちの想いもいっそう身に染みるのです。オッサンたちの団結、頑張りにはエールを送りたくなるし、ギーアの辿る運命には涙……。でもラスト「え~!」ということをオッサンたちはしでかし、見ている方は泣き笑いですよ。カップル、友だち、夫婦、親子、誰と見ても大丈夫。ぜひ、この映画でオッサンたちから勇気をもらってください。
執筆=斎藤 香(C)Pouch

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『人生はマラソンだ!』
2014年6月21日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
監督:ディーデリック・コーパル
出演:ステファン・デ・ワレ、マルティン・ヴァン・ワールデンベルフ、フランク・ラマース、マルセル・ヘンセマ、ミムン・オアイッサ、アリーアネ・シュルター、シンシア・アブマ、マルタイン・ラケマイヤー、マフーブ・ベンムーサ、ルース・ルカほか
(C)2012 Eyeworks Film & TV Drama B.V.

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