main_adorval_aopilon1_1_1_large
[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのはカンヌ国際映画祭で審査委員賞を受賞したグザヴィエ・ドラン監督作『Mommy/マミー』。

母と息子の濃密な関係を描いた作品。26歳の若さながら作品ごとにその名を高めていくドラン監督。製作、監督、脚本、編集、衣装などに関わり、映画を自分色に染め上げるドラン監督の新作は、母と息子の姿にヒヤヒヤしつつ、愛情をたっぷり感じさせる映画なのです。

【物語】

架空の世界のカナダが舞台。新政権による新たな法律のひとつに、発達障害の子供を持つ親は、精神的肉体的な苦痛、貧困による育児困難などの危機に陥った場合、法的手段を取らずに、子供を入院させる権利を持つというもの。

ダイアナ(アンヌ・ドルヴァル)には15歳の息子スティーヴ(アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン)がいますが、彼はADHD(多動性障害)。時折、手が付けられないほど暴れます。スティーヴは入っていた施設を出ることになり、ダイアンは息子と二人暮らしをすることに。言い合いが絶えない二人ですが、落ち着いているときのスティーヴは優しく素直で知的な少年で、息子の二面性にとまどうダイアン。

そんな二人が近所に住む女性カイラ(スザンヌ・クレマン)と知り合います。心の病で吃音になってしまったカイラ。しかし、彼女はスティーヴの家庭教師になり、ダイアンとスティーヴとの絆を深めていくのですが……。

【母と息子、女と男】

母親にとって息子はかわいくてしょうがないらしい。ファザコンよりもマザコンの方が多く話題に上がるのは、母と息子の密な関係ゆえのことでしょう。赤ちゃんだった息子が成長し、男になっていく。そんな息子が愛おしいのは、母性だけでなく、自分が育てた男だと無意識の中で母親の女の部分が思っているからではないかと。

しかし、愛情たっぷりに育てた男が思い通りに成長してくれないとき、母は猛烈に悩みます。それがこの映画のダイアン。ダイアンは派手な身なりに常に感情むき出し、正直、上品とは言えない女ですが、母親として息子を見つめる瞳は多くの母と一緒です。愛すべき息子ゆえに、過激に乱れる息子を見ていられないのです。ドラン監督はこう言っています。

「自分がよく知っているテーマ、僕の創作意欲を否応なしに掻き立てる、僕が最も愛するテーマは、僕の母についてだ」

母との関係を映画で追及するドラン監督。男と女じゃないのに異性、そして恋人や夫婦以上の関係、母と息子とは……。ドラン監督のデビュー作も『マイ・マザー』ですからね。息子から母への想い、母から息子への想い。『Mommy/マミー』を見ていると、息子と母親って何でこんなにも複雑なのだろうかと思う。

【複雑な母と息子を明るく魅せる】

濃厚な母と息子の物語だけれど、意外にも陰鬱な印象はありません。架空の世界のカナダの美しい青空、鮮やかな緑、ダイアンとスティーヴの家も高級住宅ではないけれど、ダイアンが作るパスタ料理は美味しそうだし、息子のことで常に頭を悩ませつつも、彼女が一生懸命人生を楽しもうとしている姿は素敵です。

正直、最初は、声が大きくて下品なオバサンだと思っていたのですが、見ているうちに、その情の深さに魅力を感じるように。

「あらゆる手を使って、愛と勇気と友情を描いた。晴れやかな映画にしようと思った。負け犬の映画を撮ったり見たりすることに何の意味があるのか僕にはわからない。人間を形作るのは困難やレッテルじゃなく、感情や夢のはずなんだ」

とドラン監督。

なるほど、そうですよね。何事も否定し続けていたら、現実に負けていたら、その先はありませんからね。『Mommy/マミー』を見ていると、ダイアナとスティーヴがともに歩く人生、そして親友カイラの人生も「いいことがたくさんありますように」と願わずにいられません。

執筆=斎藤 香(c)Pouch
sub-8_sclement1_1_1_large

sub-2_mommy_threeshot_1_1_large

sub-7aopilon2_1_1_large

sub-4_adorval1_1_1_large

sub-1_mommy_onskateboard_1_1_large

『Mommy/マミー』
2015年4月25日より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、109シネマズ二子玉川ほか全国順次ロードショー
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、アントワーヌ・オリヴィエ・ピロンほか
Photo credit : Shayne Laverdiere (C)2014 une filiale de Metafilms inc.