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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、フランス映画『サンバ』(2014年12月26日公開)です。この映画は、2011年に大ヒットした映画『最強のふたり』の監督(エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ)と主演俳優(オマール・シー)が再タッグを組んだ最新作。

フランスに10年滞在していたセネガルの青年が、夢を掴む目前で、NOをつきつけられてしまいます。彼は移民団体に駆け込み、そこで働く女性との間で絆を築いていく物語です。

【物語】

レストランの皿洗いからやっと料理人として採用されることになったサンバ(オマール・シー)。いよいよ滞在許可証がもらえると役所を訪れたら、すでに不許可の通知を郵送済と言われ、収容所送りに。移民ボランティア団体のもとに助けを求めたサンバは、そこでアリス(シャルロット・ゲンズブール)と出会います。年配の女性と法学生がメインの団体で、アリスは少し浮いていました。そして、思いもよらない出来事をきっかけに二人の仲は急接近して……。

【社会的な問題を見やすく描く】

『サンバ』は移民が悪戦苦闘して、生きる道を模索する物語です。作家デルフィーヌ・ターランが自身の移民救済活動を綴った著作をもとに、『最強のふたり』の監督が再び人と人とのふれあいによって変わっていく人生を描いています。
エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ監督は、不法移民をテーマにした映画を撮りたいとかねてから思っていたそうです。そしてもうひとつのテーマが「燃え尽き症候群」。そのテーマはヒロインのアリスに重ねました。

「僕らは、映画『最強のふたり』を撮り終えたとき、燃え尽き症候群を経験してしまったんだよ」

と、二人は語っています。思い通りの映画ができて、世界中で評価され、何のために映画を撮るのか……がわからなくなってしまったのかもしれません。アリスは元キャリアウーマン。仕事のできる女として成功していたけれど、ある日、仕事のための人生に疑問を感じてしまうのです。

「仕事だけが人生の存在意義なのか?僕らはそれを世間にぶつけたいと思ったんだ」

と監督。生きることに必死のサンバと生きることの意味を見いだせないアリスが出会ったときの化学反応がこの映画の見どころ。そして一歩間違えば重くなりがちなこのテーマを、ユーモアと温かさで描いたところが映画『最強のふたり』のトレダノ&ナカシュ監督の魅力。人間ドラマとして、とても暖かくやさしい手触りなのです。

【手を取り合って生きて行こう!】

サンバは優しい人柄ですが、女性に対して少々軽いところがあり、友達の恋人と関係を持ってしまうような一面もあります。よく言えば人に対する垣根がとても低いというか……。しかし、そこからトラブルに発展することも。逆にアリスは人に対して分厚い壁がありますが、それを突破してきたのがサンバ。何しろ支援団体での仕事に疲れて逆ギレした彼女に対して、サンバは「ありがとう」とお礼を言うのですから! 

傷ついている、欠点もある、でも人生なんとかしようと必死にもがいている二人。どうせ頑張るのなら、手を取り合っていきましょうよ~というメッセージが聞こえてきます。自分ひとりで頑張ることも強くなるためには悪くはないけど、信頼できる人に手を差し伸べられたら、その手を掴むのもあり! サンバとアリスがぎこちないながらも、距離を縮めていくプロセスは、恋愛も含め、良い関係ってこうやって築かれていくんだな~と心温かくなります。

トレダノ&ナカシュ監督の映画は『最強のふたり』もそうですが、壁にぶつかったり、重い物を背負ったりしている人に対する眼差しが優しいです。そしてそういう人を幸福にしてあげたいという愛を感じます。『サンバ』もしかり。冬休みに見て、やさしい気持ちで新年を迎えましょう!
執筆=斎藤 香(c) Pouch

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『サンバ』
2014年12月26日より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
監督: エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
出演: オマール・シー、シャルロット・ゲンズブール、タハール・ラヒム、イジア・イジェランほか
(C)Quad – Ten Films – Gaumont – TF1 Films Productions – Korokoro

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