【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。

今回ピックアップするのは、スティーヴン・スピルバーグ監督作『ペンタゴン・ペーパーズ　最高機密文書』（2018年3月30日公開）です。

アメリカで実際におきた機密文書流出事件を題材に作られた本作。言論の自由を守るために、政府の欺瞞を暴き、政権に立ち向かったジャーナリストたちの物語は、現在日本や世界で起こっていることに重なるような気が……。

そういう目で見ると、本当に興味深く、胸が熱くなる大傑作なのです！

【物語】

1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国防総省（ペンタゴン）は客観的な調査と分析を記した文書を作成していました。

ある日、その文書の一部が流出し、ニューヨーク・タイムズがスクープ。ワシントン・ポストもそれに追随する形で、残りの文書を手に入れるべく奔走します。その文書には、アメリカ政府がベトナム戦争について国民を欺き、虚偽の報告をし続けていた証拠が記されていたのです。


ワシントン・ポストの経営者、キャサリン・グラハム（メリル・ストリープ）は、編集主幹ベン・ブラッドリー（トム・ハンクス）から「国家から反逆罪を問われることになっても報道の自由を守るべきだ」と文書の掲載を迫られます。

そんな中、キャサリンが下した決断は……。

【元・専業主婦の経営者に驚き！】

この映画の魅力は、主役のキャサリン・グラハム！　彼女はとても意外性に飛んだ人物なのですよ。見る前は、てっきりキレ者の女性経営者だと思っていたのですが、とんでもない。笑顔が可愛いほっこりムードのマダムなのです。

キャサリンは亡くなった夫の後を継いで経営者となった女性で、決して自力で手に入れたトップの座ではなく、元・専業主婦。スピルバーグ監督は、そのキャラクターをうまく映画に活かしました。

政治色の強い映画は見る者を選ぶ傾向がありますが、本作はキャサリン・グラハム中心に描いたからこそ、観客はグっと映画に近寄れます。

普通の奥さんが新聞社の経営者になり、米国の歴史に刻まれる決断をする映画と聞けば、誰しも興味を持つもの。「自分だったら、どうするだろう？」と考えたり。決して観客から遠い話にはしないところが、スピルバーグ監督、本当に上手いと私は思いましたね。

【キャサリンに命を吹き込んだメリル・ストリープの神演技】

「ペンタゴン・ペーパーズ」の案件が降りかかって来たとき、最初のころのキャサリンは「もう困ったわ」みたいな顔をしていましたが、掲載するか否かの決断を迫られるにつれ、彼女の中での葛藤が色濃くなっていくのがスクリーンを通してビシビシ伝わってきます。

観ていると「政府とうまくやってきたのに、どうしたらいいの？　新聞社をつぶしてしまうかもしれない。社員を路頭に迷わせてしまうかもしれないわ」みたいな、キャサリンの心の声が聞こえてくるような気さえしました。

そのあたりは、もはやメリル・ストリープの名人芸を楽しむという感じです。普通の奥さんぽさを残したまま、経営者としての成長を見せ、大きな決断を下すという絶妙な芝居を見せるメリル。本作で21回目のアカデミー賞候補になりましたが、お見事としかいいようがありません！

【ジャーナリスト魂をスリリングに見せる後半部に興奮MAX】

また、トム・ハンクスが演じるベン・ブラッドリー編集主幹も魅力的です！「国民を偽っていた文書が手に入った、これを公開してこそ真のジャーナリスト」と燃える記者魂……かっこいい。

ベンは部下の使い方もうまくて、文書を手に入れるために若い記者を飛ばし、キャサリンに記事公開を促すのも最初はジリジリ、タイムリミットが近づくと情熱的に口説いて、彼の行動とともに映画も盛り上がってゆくのです。


最後の方は、記事を公開するか否か、ベンとキャサリンのやりとりがタイムリミットサスペンスみたいになってきて、心臓バクバクしましたよ！

この映画は、政治的なテーマに女性の社会進出、自由を守るための勇気を含ませた硬派な映画ですが、実に見やすくわかりやすくてスリリング。かつ、エンタティメント性も高いところが魅力的。デートでも女子同士でも、見終ったあとにいろいろ語りたくなる映画ですよ！



執筆＝斎藤 香 (c)Pouch

『ペンタゴン・ペーパーズ　最高機密文書』
（2018年3月30日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー）
監督：スティーヴン・スピルバーグ
出演：メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ブラッドリー・ウィットフォード、アリソン・ブリー、ブルース・グリーンウッド、マシュー・リスほか
(c) Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

▼『ペンタゴン・ペーパーズ　最高機密文書』予告編