堂本剛、27年ぶり単独主演映画『まる』を鑑賞 / 綾野剛とのシーンが全部最高＆森崎ウィンとの交流にも心が温まる…！

【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは堂本剛主演映画『まる』（2024年10月18日公開）。剛さん27年ぶりの映画単独主演作です。『かもめ食堂』(2006年)『彼らが本気で編むときは、』（2017年）などの荻上直子監督作で剛さんをスクリーンで見られるなんて喜び！

というわけで試写で鑑賞したのですが、シュールでユニークで素敵な作品でしたよ。では、物語から。

美大卒だけれどアートで身を立てられず、人気現代美術家（吉田剛太郎さん）のもとでアシスタントとして働いている沢田（堂本剛）は、言われたことを淡々とこなす日々。

ある日、通勤途中に事故に遭い、腕に怪我を負った沢田は職を失ってしまいます。そんな彼がふと部屋にいた蟻に気づき、その動きに導かれ、何気なく描いた “まる”。それがいつの間にかSNSで拡散され、正体不明のアーティストとして時の人となっていくのです。

アイドルとして一世を風靡したKinKi Kidsの堂本剛さん。ティーンのころは多くのドラマや映画に出演をして、歌手だけでなく俳優としても一時代を築いたスーパースターです。

そんな彼が、27年ぶりの単独主演映画『まる』で謎のアーティストを演じたのですが、やっぱり良かった〜！

剛さんのマイペースで掴みどころがないけど、人を惹きつけて止まない魅力が、役の沢田にピタリとハマり、少し変わった男だけれどスルッと心に入ってくるんです。

沢田が従事していた美術家は作品をアシスタントに描かせており、ちょっと問題ある人物でしたが、沢田は全然気にしません。美術家のくせに作品をアシスタントに丸投げであることに怒るアーティスト仲間（吉岡里帆さん）に「あなたは芸術家ではなく職人なんですか」と突っ込まれてもスルーする沢田。

自分にも他者にも過度の期待をせずに、与えられたものを素直に受け入れ、あるがままに生きることを大切にしていると思われる沢田だけど、口癖のように「諸行無常の響きあり〜」と仏教を唱えるんですよね。

何か変化を期待しているかも、と思わせます。

このまま沢田はマイペースに生きていくのかなと思いきや、周囲の人との交流で心が少しずつ動き始めるんです。

まずはアパートの隣の住人・横山（綾野剛さん）。売れない漫画家で、描けないと夜中に奇声を発するので「うるさいよ」と沢田が壁を叩くと、なんと横山はキックで壁を撃破する暴挙に！

「ヤバイ男だ、怖い怖い」と思っていたのですが、一生懸命漫画と向き合い「世の中の役に立ちたい」と熱く語る横山。

とにかく沢田になついていく横山がヤバイ男からチャーミングに変化していく様がすごく良くて、さすが綾野剛！　細やかなお芝居で横山の魅力をジワジワとスクリーンに浸透させていきます。堂本剛さんとの相性もバッチリ。沢田と横山のシーン、全部良かったです。

沢田は生活のためにコンビニでバイトを始めるのですが、バイトの先輩・ミャンマー人留学生のモー（森崎ウィンさん）との交流も心が温まりました。日本語がたどたどしいため、心ない客から差別的な言葉を浴びるモー。

それでも笑顔でポジティブパワーを発揮する彼を「前向きだなあ」と語る沢田。でも「そういう風に考えないとやっていられないから」というモーの本音にはちょっと胸が痛くなりました。

もちろんいい人ばかりではなく、時の人となった沢田に近づいてくる怪しげなアートディーラーとか、野心的なギャラリーオーナーなど、富と成功にしがみつくような人物も出てきます。

でも沢田はチヤホヤされても大して変わらない。ひとりで自分自身と向き合って生きてきた人間の強さかなと思いました。

荻上監督は公式のインタビューで「自分がわからなくなってしまう人の話」と語っていますが、沢田は「自分どうなってる？」と思いながらも、“まる”の人気による狂騒を少し離れた場所で諦観しているような印象がありました。

また、キャラクターがしっかり描き込まれているから、シュールで不思議だけど、ちゃんと共感もあるんですよね。まさに秋にぴったりの『まる』。ユニークで心に染み渡るいい映画。おすすめです！

『まる』
2024年10月18日より全国ロードショー
監督・脚本：荻上直子
出演：堂本剛
綾野剛／吉岡里帆森崎ウィン戸塚純貴おいでやす小田濱田マリ
柄本明／早乙女太一片桐はいり吉田鋼太郎／小林聡美
音楽：.ENDRECHERI.／堂本剛
主題歌：堂本剛『街(movie ver.)』

Pouch［ポーチ］