【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

ピックアップするのは、作家・水上勉の料理エッセイをもとにした映画『土を喰らう十二ヵ月』(2022年11月11日公開)です。主演は沢田研二さんと松たか子さん。せかせかと時間に追われる日々から一転、ゆーっくり時間が流れていく、そして美味しいものをしっかり味合わせてくれる作品です。

では、物語から。

【物語】

作家のツトム(沢田研二さん)は信州の山荘で執筆活動をしながら、愛犬と15年前に亡くなった妻の遺骨と暮らしています。ときどき担当編集者、そして恋人でもある真知子(松たか子さん)が訪ねて来るのが楽しみ。

なかなか筆は進まないけれど、春夏秋冬、季節ごとに畑の食材で作る精進料理もツトムの人生に欠かせないものになっていきました。

亡き妻の母も逝去し、その葬儀が行われる夜のこと。ツトムは真知子にある提案をするのですが……。

【ゆっくり流れる時間に身を委ねる映画】

いい映画でした〜〜〜。

信州で暮らす主人公の衣食住を中心に恋人や周囲の人々との交流を描いた作品で、大きな事件が起こるわけではないのですが、私も信州のツトムのお家にお邪魔したような気持ちになりました。

畑で育てた野菜、山で収穫する山菜を使った料理の数々。お芋だって火で炙っただけでお美味しそうなんです。

原稿そっちのけで、畑仕事と料理に力を入れるツトムは編集者にとったら困った作家かもしれません。けれど、信州でゆっくりと過ごすことで、何かが生まれるのを待っているのかもしれない。

東京で仕事をしていると、時間の流れがはやく、テンポ良くサクサクやらなくちゃと思ってしまいます。しかしこの映画を観て、ツトムみたいに丁寧に料理を作って、食事の時間を楽しむことも大切にしなくちゃと思ったりもしました。

【沢田研二が主演の理由に納得】

主演の沢田研二さんも良かったです。沢田さんは昭和歌謡曲を支えた超スーパースター “ジュリー”。新曲をリリースするたびにド派手な衣装が話題に上がり、ヒット曲を次々生み出していきました。ジュリーはセクシーでめちゃくちゃかっこいいんです!

そんな沢田さんを主役に選んだ理由を中江裕司監督こう語っています。

「ツトムは水上さん(原案となった料理エッセイ『土を喰う日々-わが精進十二ヵ月-』の著者・水上勉)をモデルにしている。水上さんはさんは文壇切ってのモテ男。女性が放っておけない魅力があり、ベストセラー作家だから、そこに説得力を持たせられる役者は沢田研二さんしかいないと思った」(公式プレスから抜粋)

なるほど! と思いましたね。

そんな沢田さんも現在74歳。体型は変わり、年相応のシワも刻まれていますがありのままの姿を見せているのがまたかっこいいんです。老いを受け止め、全て見せる姿に男の生き様を感じました。

松たか子さんとの相性もバッチリで、恋人同士のツーショットは美しかったですよ。

【ほっこり気分になる映画です】

本作の料理の数々は、料理研究家・土井善晴さんが原案のレシピを再現しています。

お通夜のシーンで振る舞われる料理の数々が美味しそうなんです。そして同じシーンに登場するお通夜にやって来る人々はなんと、ロケ地でオーディションをして選ばれた人々。エキストラとはいえ、皆さん表情豊かでいいんですよ〜。頑張ってお芝居している様子も微笑ましかったです。

ツトムが暮らす山荘、そこから見える景色、お料理の数々だけでなく、食器や料理器具のひとつひとつにこだわりがあり、丁寧な生活が垣間見られます。

2022年もあと少し、1年の疲れが出て来る頃だと思うので、本作のようなゆっくりほっこりした作品で穏やかな気持ちになるのもたまには良いのではないでしょうか。『土を喰らう十二ヵ月』おすすめです。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:© 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会

『土を喰らう十二ヵ月』
(2022年11月11日より 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー)
監督・脚本:中江裕司
原案:水上勉『土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―』(新潮文庫刊) 『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』(文化出版局刊)
料理:土井善晴
出演:沢田研二 松たか子 西田尚美 尾美としのり 瀧川鯉八 / 檀ふみ 火野正平 奈良岡朋子