変わらない平凡な日常を愛していた。
いつもと同じ満員電車に揺られ、毎日同じ景色を見る。淡々と仕事を終わらせ、朝起きたらまた1日がはじまる。「何もない」のは何よりも良いことのはずで、少しだけ自分に刺激を与えたサウナの存在も、このところ「いつものサウナ」ができたことで、すっかり日常になじんでいた。
なのに、どうしてだろう。
年末特有のうわついた空気、そして定時を少し過ぎた金曜日のにぎやかなオフィスで、私の時間だけがここに留まって澱んでしまっているような、漠然とした違和感。
変わらない平凡な日常を愛していた。
いつもと同じ満員電車に揺られ、毎日同じ景色を見る。淡々と仕事を終わらせ、朝起きたらまた1日がはじまる。「何もない」のは何よりも良いことのはずで、少しだけ自分に刺激を与えたサウナの存在も、このところ「いつものサウナ」ができたことで、すっかり日常になじんでいた。
なのに、どうしてだろう。
年末特有のうわついた空気、そして定時を少し過ぎた金曜日のにぎやかなオフィスで、私の時間だけがここに留まって澱んでしまっているような、漠然とした違和感。
「はい……はい……では、20時半に……」
電話を切って給湯室を出ると、通りがかりに電話の声が聞こえたのか、なにやらニヤケ顔の同僚がこちらを見ていた。デートですか、と尋ねる同僚に、違いますよ、とそっけなく答える。
事実、違うのだから仕方がない。給料日後の、ひそかな楽しみ。買い物も、少し贅沢な食事も良いけれど、今日は違う。
行きつけのサウナでアカスリを予約しているのだ。
時間を気にしながら、大急ぎで仕事を片付ける。
まるで懺悔室だな。
薄暗いサウナ室。一段目に膝をかかえて座り、ぼんやりとそんなことを考えていた。誰かが水を撒いたのか、濡れた床が少しの光に反射して光る。
数分おきにサウナストーンに自動で水がかかると、湿度を含んで重くなった熱が時間差で頭上から襲い掛かってくる。重たい熱は、決して私を包むことも、癒すこともなく、私の感覚と混ざりあわないまま、私を責めるように熱くする。
でも今日は、それくらいの厳しさが私にはちょうどよかった。
苦手なもの。
予期せぬ遭遇、予定の変更、急な誘い。
気にしすぎだ、と、よく言われる。確かにそうかもしれない。常に万全に準備をしていたい性格なのだ。でも、気を抜いたときに限って、急に人に会う予定が入ってしまう。人生は、うまくいかない。
「え、そういう曲、聴くんですね」
言葉のうしろに、「(笑)」が透けて見えたような気がした。
帰り際、エレベーターホールでのことだった。
遭遇した同僚に、何聴いてるんですか、と無邪気にたずねられ、正直に答えるべきではなかったと少しだけ後悔した。
そうなんですよ、ちょっと古いですよねえ、と自虐するように笑う。
みぞおちのあたりが、きゅっと絞められるような感覚が苦しい。
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「飲みにいこうよ」のお誘いがいつもよりうれしくて、その日が楽しみだったのには理由がある。
用意するのはお財布、携帯、に加えて、いつものお風呂セット。目的地は、食事もできるスーパー銭湯だ。
暦の上ではもうすっかり秋だというのに、夏のような寝苦しさで目が覚めてしまった。東向きの寝室の窓には朝日がよく入る。
冷え込んだ夜のうちに出した羽毛布団は無意識に蹴飛ばされて、ベッドの下でむなしく丸まっていた。
「サウナ、いいっすよ」
そう語る、ひげ面で派手なTシャツのその上司が苦手だった。好きな服を着て、明るく充実した毎日を送り、趣味を語る姿がいつもまぶしかった。私みたいな凡人を、つまらない人間だと笑っているに違いない。
自分の無難な服装も、家に帰って寝るだけの毎日も、嫌いじゃなかった。ただ少し、慣れただけ。