まるで懺悔室だな。

薄暗いサウナ室。一段目に膝をかかえて座り、ぼんやりとそんなことを考えていた。誰かが水を撒いたのか、濡れた床が少しの光に反射して光る。

数分おきにサウナストーンに自動で水がかかると、湿度を含んで重くなった熱が時間差で頭上から襲い掛かってくる。重たい熱は、決して私を包むことも、癒すこともなく、私の感覚と混ざりあわないまま、私を責めるように熱くする。

でも今日は、それくらいの厳しさが私にはちょうどよかった。


「……あとはもう、いいから。」ため息まじりの上司のひとことに、サーッと体温が下がるのを感じた。申し訳ありません、と絞り出した私の声は、上司に届いていただろうか。うつむいたまま席にもどったときの苦しさを、数時間経った今でも思い出せる。

発端は、小さなミスだった。原因はわかっている。対策も考えた。

もう頭を切り替えないと、と焦るのに、あのときああしていれば、こうしていれば、そんな無駄な後悔ばかりが、頭のなかをぐるぐると回る。引きずってしまうのは、私の悪い癖だ。わかっているから、今日はここに来た。

だらだらとあふれて顔を濡らすのは、汗か、蒸気か、涙か。情けなさと自己嫌悪で、顔も心もぐしゃぐしゃになっていく。

でも今日は、このままでいい。

ふらふらと向かった水風呂で、頭から水をかける。汗も涙も流れてなくなってしまうように、何度もかける。それは、まるで禊(みそぎ)のようだった。

水風呂のゆるいバイブラに身を任せる。じわじわと頭のなかが空っぽになっていくのを感じていた。今日はもう充分すぎるくらい、考えた。落ち込んで、反省して。そろそろ、浮上してもいい頃だ。

どれくらいそうしていただろう。うっかり冷えすぎてしまった身体を拭いて、サウナ室に戻る。
さっきまで重たくのしかかってきていた熱が、今は少しだけ優しく感じられるのは冷やしすぎた身体のせいか、あるいは。

ふと、幼い頃のことを思い出していた。
あれは小学生の頃だったか、厳しかった母に叱られて、泣きながら眠りについた夜、誰かが枕元に立って私の頭を優しく撫でていたような感覚があった。寝ぼけてみた夢だと思っていたけれど、あれはたしかに母だったと、今ではわかる。

私を包み込むような熱のやさしさは、あの時の母の手の感触に、少しだけ似ていた。

イラスト:町田メロメ
執筆:今日の子 (c)Pouch