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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、2009年、インド洋のソマリア沖で実際に起こった事件を忠実に描いた『キャプテン・フィリップス』。

救援物資を運ぶコンテナ船が、ソマリアの海賊に占拠されてしまい、乗組員を守るために人質になったキャプテン・フィリップスを描いた映画です。今年のアカデミー賞最有力と言われているのも納得、皆さん、これ本当にすごい映画です!

フィリップス(トム・ハンクス)はオマーンからケニアへの救援物資を運ぶコンテナ船の船長。この日もいつものように20名の乗組員とともに出港します。ソマリア沖は海賊が出没するとの情報があり、フィリップスは念のため、緊急避難訓練も行います。それと同じ頃、ソマリアでは、若者たちが船を襲撃するために出発。そして彼らのレーダーにフィリップスの船が探知されてしまいます。ソマリアの海賊たちは、コンテナ船に乗り込み、銃を手にフィリップスを人質にし、アメリカに大金を要求するのです。

海賊の船は小型ボート、フィリップスの船は大型のコンテナ船、追いかけられてもすぐに振り切れそうなのですが、海賊たちが賢くしぶとく、次々とコンテナ船に飛び乗るところから、緊張感はどんどんアップ。ソマリアの海賊は、全員やぜっぽちで、頬がこけていて、目だけがギョロギョロしています。力強さは感じませんが、狂気に満ちた目は何をしでかすかわからない怖さが……それはもう「本物?」と思うほどに。

グリーングラス監督は、この海賊役をソマリア系アメリカ人のオーディションで決定したそうです。「彼ら4人はもともと友達でチームで演技の練習もしていたんだ。演技の経験はまったくなかったけど、素晴らしい集中力の高さと役に陰影も含ませて、トム・ハンクスを相手に実力を発揮できた。本当に素晴らしかったよ」と監督も絶賛。

この映画は前半と後半、ふたつの緊迫したスリルを描いています。最初は大型コンテナ船でのフィリップスと海賊たちのスリリングな駆け引き。そして後半は、海賊たちが人質のフィリップスを連れて救命艇に乗り込み、海軍と交渉を行いピンチに立たされるスリルです。海賊たちは海軍に追い込まれ、もう絶対に勝ち目はないのだけれど、見ているこちらは、海賊がフィリップスを道連れに自爆するのではないかと、気が気じゃなくて……。

正直、海賊がコンテナ船に乗り込んでから、ずーっと緊張しっぱなしです。ひと息もつけません。リアリティを追求するグリーングラス演出は、観客も乗船しているがごとく波に揺られている感じがつきまといますし、特に救命艇のシーンは、記者は映画に入り込み過ぎて、ちょっと船酔いしていました……。でもノンフィクションですから、これくらい圧倒的リアリティを持って描かなければ、フィリップスや乗組員のみなさんの恐怖や苦労は浮かばれないでしょう。

「自分がこのような状況になったら」と考えるだけでめまいがするほど、ハードな実話の映画化『キャプテン・フィリップス』。でもそれだけの緊迫感ある映画だからこそ、ラストシーンはこれまでにないカタルシスを感じますし、熱い気持ちがこみあげてきます。また全編出ずっぱりで、肉体も精神も酷使しながら、圧倒的な存在感で演じきったトム・ハンクスはアカデミー賞主演男優賞候補は確実視されており、できれば獲得してほしい! 

監督の演出、役者の演技、リアリティを追求した困難な撮影を実現したスタッフ、この映画に関わるすべての人が一流の仕事をこなした傑作『キャプテン・フィリップス』、いま見るべき映画No.1です。
(映画ライター=斎藤 香)
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『キャプテン・フィリップス』
2013年11月29日公開
監督: ポール・グリーングラス
出演: トム・ハンクス、バーカッド・アブディ、バーカッド・アブディラマン、ファイサル・アメッド、マハト・M・アリ、マイケル・チャーナス、コーリイ・ジョンソン、マックス・マーティーニほか