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【公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、超話題作『海賊とよばれた男』(2016年12月10日公開)です。百田尚樹の同名原作の映画化。本屋大賞を受賞したベストセラー小説ですからご存じの方も多いでしょう。

出光興産の創業者である出光佐三をモデルにした本作。石油販売で成功した出光氏は、V6の岡田准一氏が演じる国岡鐡造と名前を変えて登場します。カリスマ創業者が何を成し遂げ、どのような人生を送ったのか、20代から95歳で永眠するまでを描いたのが本作。『永遠の0(ゼロ)』の山崎貴監督と主演の岡田が再タッグを組んでいます。

【物語】

国岡商店の国岡鐡造(岡田准一)は、石炭が主要燃料だったころから石油の将来性に目を付けていました。彼は石油業を始めようとするけれど、新参者は相手にされずに悔しい思いをする日々。しかし、国岡はなんと海上で石油を売りさばくという大胆な商売を始めます。石油業者の反感を買っても異に返さない国岡。

彼の剛腕とカリスマ性に魅せられて、彼の元には人が集まり、米国の石油メジャー(欧米の石油系巨大企業複合体)を敵に回しても、彼は我が道を邁進していくのです。
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【20代から晩年までの男の人生を熱演】

国岡役は、製作陣と山崎貴監督が「岡田に演じてもらいたい」と熱望したそうです。映画『永遠の0』で組んでいますが、相性が良かったのでしょう。岡田准一もスタッフの期待にしっかり応え、20代から晩年まで演じ切っています。中年以降は髪、肌など、年相応の特殊メイクで老化させ、年齢に合せた声や動作で細やかな芝居を見せる岡田氏……。

しかし、老年メイクはどんなに素晴らしくても、この映画で岡田准一が一番輝いているのは若き日の国岡を演じているときです。若くて血気盛んで怖いもの知らずの国岡は、とても魅力的な男なんですよ。

でも彼の若き日は映画の3分の1くらいで、あとは中年以降の国岡。小林薫、吉岡秀隆、堤真一、國村隼とベテランに囲まれても、人を惹きつけてやまない威厳あるドンでいけなればならない。これは少々厳しいものがありました。この年齢を演じるには岡田准一は若すぎるのです。国岡の若い頃をクローズアップした『海賊とよばれた男』だったら良かったのにと何度も思いました。

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【誰もが魅了されるヒーローとして描いているけど……】

出光といえば、出光石油。ガソリンスタンドにお世話になっている人も多いでしょう。超有名な会社なので、創業者もやり手なのは想像できますが、まさかこんなに危ない橋を渡って生きてきた人とは! と驚きです。政府や英米ににらまれながら、出光を大きくした功績は大。敵が巨大でも決してひるまず、長い物にまかれず、己の信じる道を突き進む強さはうらやましいほどです。

しかし冷静に見ると無謀なこともやっており、成功したから良かったようなものの……と思う出来事も。

映画では多くの人が彼の魅力に吸い寄せられていきますが、実際はどうだったのだろうと思いました。映画は彼を英雄として描き、岡田准一の甘いマスクで毒は緩和されていますけどね。
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【大河ドラマとして見たい!】

山崎監督は、明治、大正、昭和の激動の時代を生き抜いた国岡の人生を実にスマートに見やすくまとめていますが、この映画を見たら、観客は「もっと国岡のこと知りたい」と思うはず。次回映像化するなら、大河ドラマというか連ドラで、ガッツリと国岡の表と裏を見たい気がします。

ちなみに本作はかなり “男好きする映画” なので、彼を誘って見るデート映画としてもOK! 男女ともに楽しめる作品ですよ。

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執筆=斎藤 香 (C) Pouch

『海賊とよばれた男』
(2016年12月10日より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー)
監督:山崎貴
出演:岡田准一、吉岡秀隆、染谷将太、鈴木亮平、野間口徹、ピエール瀧、小林薫、堤真一、國村隼、綾瀬はるか ほか
(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

▼『海賊とよばれた男』予告編