【最新公開シネマ批評】映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

ピックアップするのは、映画『1秒先の彼』(2023年7月7日公開)。台湾映画『1秒先の彼女』のリメイクで、何をするにも1秒早い彼と1秒遅い彼女の関係を描いたユニークな設定のラブコメディなのですが、とっても爽やかな作品でしたよ〜。

では、物語からいってみましょう。

【物語】

郵便局に勤めるハジメ(岡田将生さん)は幼いころから何をするにも1秒早い男。記念写真ではシャッターチャンスを逃し、運動会の徒競走ではフライングばかり。

いっぽう、レイカ(清原果耶さん)は、何事も1秒遅い。運動会ではスタートの合図があってもすぐに走り出せないというノンビリした大学生です。

ある日、ストリートミュージシャンの女性にひと目惚れしたハジメ。トントン拍子で仲よくなり、花火大会に一緒に行く約束をします。浮かれまくるハジメですが、

「デートの日が消えた!」

朝、目覚めたらデートの翌日……。しかも、近所の写真館に見覚えのない自分の写真が飾られていり、ものすご〜く日焼けしたりしていたのです。

【イケメンだけど、せっかちな残念男子】

ハジメをとってもチャーミングに演じる岡田将生さんがいいんですよ〜!

なんでも1秒早く行動してしまうため、あらゆることにタイミングが悪い。かつ、恋に不器用で付き合ってもすぐフラれてしまう……。そばにいたら「何やってんの?」とツッコミたくなる男ですが、第三者目線で見ると可愛いんです。

おそらくその魅力は岡田さんの表情の豊かさ!

つまんなそうな顔、困った顔、ウキウキの顔、落ち込んだ顔……それぞれの表情から心が読み取れるんです。だから映画を観ながらハジメの心に寄り添えるし、その魅力をしっかり受け止めることができました。

【知って驚くレイカの秘密】

レイカはハジメが勤める郵便局に毎日通うお客さん。切手を1枚買って郵便を出すことがルーティンで、「なんで切手をまとめて買わないの?」と不思議がるハジメに口ごもるレイカ。でも、それには理由があったのです。

レイカの秘密は、映画で観ていただきたいのですが、ひとつだけ言えるのは、ハジメのことをレイカはずっと前から知っていたのです。そして彼と交わしたある約束を守るために郵便局に来ていたのでした。

【巧みな構成で見せる“消えた1日”】

この映画の面白さを支えるのは構成の巧みさです。

前半はハジメのキャラクターから来るユニークなエピソード(家族も面白い!)が多く語られますが、デートの1日が消えてしまったあとから、レイカのエピソードになるのです。

それは「消えた1日に何が起こったのか」を描いたもので、レイカのエピソードがそのまま前半の伏線回収になっていく展開はワクワクするし、同時にちょっと切なさも。

正直、現実にはありえない出来事なのですが、それでも信じたいと思わせてくれるのは、レイカが抱える過去のエピソードやハジメへの思いがリアルに胸に迫るからでしょう。やはり思いの強さは人の心を動かすのです。

【クドカン×山下敦弘の相性抜群!】

本作は演出・山下敦弘監督、脚本・宮藤官九郎という強力な布陣です。オリジナルの台湾映画とは男女の設定を反転させて脚色したことについて、宮藤さんは

「配役で煮詰まり、“男女の役を入れ替えるのはどうでしょう”と提案されたとき、“ヒロインが岡田将生くんならそれもアリですね”と答えました。岡田くんには不思議なヒロイン感があるんです」(公式資料から抜粋)

とコメントしています。

岡田さんには “男” をゴリ押ししてこないフワッとした柔らかさと清らかさがあるので、この作品の持つファンタジーにピタリとハマるわけです。

この映画の持つサイダーみたいな爽快感は夏にピッタリ! ぜひ劇場で、ハジメとレイカの可愛い物語をご覧ください!

執筆:斎藤 香(c)pouch
Photo:©2023『1 秒先の彼』製作委員会

1秒先の彼
(2023年7月7日より全国ロードショー)
監督:
脚本:宮藤官九郎
出演:岡田将生 清原果耶 福室莉音 片山友希 しみけん 笑福亭笑瓶 松本妃代 伊勢志摩 柊木陽太 加藤柚凪 朝井大智 山内圭哉 羽野晶紀 加藤雅也 荒川良々