【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは北村匠海、吉沢亮、小松菜奈の共演作『さくら』(2020年11月13日公開)です。人気俳優たちが兄妹役で共演。さくらというのは、兄妹が可愛がっている犬の名前(サクラ)です。ポスターもふんわり穏やか系だし「ほっこりした感動作なのかな」と思いながら試写で鑑賞させていただいたのですが、けっこうぶっ飛んだ映画だったのです!

【物語】

長谷川家の次男・薫(北村匠海)にとって、兄の一(ハジメ/吉沢亮)はヒーローでした。スポーツ万能で女の子にもモテモテ。すべてにおいて叶わない兄だったのです。

妹の美貴(小松菜奈)はかっこいい兄が大好きでいつも後をくっついていましたが、兄妹が仲良く暮らす日々はある日突然失われてしまいました。一が亡くなったからです。そのときから長谷川家はバラバラになってしまい……。

【観る前と観たあとのギャップに驚き!】

とにかく観る前と観た後のギャップが激しい映画でした。原作未読で観たせいもあるのですが、お正月におせちを食べずに餃子を食べるなど、独特な生活様式を持った家族なんです。兄妹の中でも薫はいちばんノーマルに見えて、わりと流されるタイプ。

兄の一はイケメンすぎて挫折を知らないであろう男ですが、それを鼻にかけることなく、穏やかでいい人です。いちばん変わっているのは妹の美貴。家族全員に甘やかされて育ったせいで、とにかくワガママでいちばんの問題児です。自分の思い通りにならないと気が済まなくて暴力をふるったり、兄の一にベッタリだったり、甘えん坊の悪ガキ小学生みたいな女子なんですよ。

【兄の一途な恋心をぶち壊したのは……】

一に彼女ができたとき、長谷川家がザワザワします。彼女の矢嶋さん(水谷果穂)は大人っぽく美人ですが、少々やさぐれた感じで、家族はみんな「優等生の一が不良系の女子と付き合うとは……」と思っています。

観ているこちらも意外だったのですが、彼女は複雑な家庭の女の子で孤独でした。そんな矢嶋さんの素顔に一は気づいていたのです。やがて矢嶋さんは長谷川家の人たちとも仲良くなっていきますが、美貴だけは絶対に彼女を認めず無視していました。

美貴がブラコンなのはわかっていたので「ヤキモチ焼いちゃって!」と軽く考えていたのですが、実は美貴の嫉妬心がその後、兄の恋心をズタズタにするきっかけを作るのです。

何が起こったのかは映画を観ていただきたいのですが、一と矢嶋さんの気持ちを考えると、絶対に許されないこと……なのですが、この映画が普通の家族物語で終わらなかったのは、美貴が突飛な行為で家族をひっかきまわしていたから。彼女はこの物語を盛り上げる起爆剤となっていたのです。

【犬がつないだ家族の安らぎ】

一が亡くなったあと、父が家出してしまうなど、にぎやかだった長谷川家は寂しくなっていきます。そんな家族を救ったのは犬のサクラ。家族みんなに愛されているサクラは、どんなことがあっても唯一、家族を笑顔にできる存在です。

人生は幸福なことばかりではない。家族に死が訪れて、みんなで落ち込んだり、バラバラになって意思の疎通ができなくなってしまうこともあるけど、サクラみたいなペットの存在が繋ぎとめてくれることもある。もしかしたら長谷川家で唯一、まともなのがサクラだったのかも……。

【演技派ぞろいの役者陣の中で光る小松菜奈!】

長谷川家のお父さんは永瀬正敏さん、お母さんは寺島しのぶさんが演じており、ベテランと若手の演技巧者が揃った本作。中でも輝いていたのは美貴を演じた小松菜奈さん。

美貴はいわゆる悪女系ですが、大人びた美人に見えたり、無邪気な幼女に見えたり、最悪の女に見えたり、最後までこの映画に観客を引っ張り込んで離さない力を放っていました。小松さんは菅田将暉さんと共演した映画『糸』でも素晴らしい演技を見せていましたし、すごい女優になるのではないかと。小松さんの今後が楽しみです。

ほんわか感動作だと思っているあなたには「ちょっと違うよ」とお伝えしておきたい、個性的な家族の物語『さくら』。北村匠海さん、吉沢亮さんの出番や見せ場もたっぷりありますのでファンの方は必見。ぜひ劇場でご覧ください。

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

さくら
(2020年11月13日より、TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー)
監督:矢崎仁司
原作:西加奈子「さくら」(小学館刊)
出演:北村匠海、小松菜奈、吉沢亮、小林由依(欅坂46)、水谷果穂、山谷花純、加藤雅也、趙珉和、寺島しのぶ、永瀬正敏
(C)「さくら」製作委員会