【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今年1作品目にピックアップするのは、役所広司さん×吉沢亮さんの映画『ファミリア』(2022年1月6日公開)です。陶芸家の主人公(役所広司さん)の息子を演じる吉沢亮さんがいいんですよ〜。家族との関係に加え、主人公とブラジル移民の青年との親子のような関係も描いた骨太で見応えある人間ドラマです。

では、物語から。

【物語】

陶器職人の神谷誠治(役所広司さん)は早くに妻を亡くし、山里で1人暮らしをしています。

ある日、誠治のひとり息子・学(吉沢亮さん)が、赴任先のアルジェリアから婚約者・ナディア(アリまらい果さん)と一時帰国。

ナディアは難民出身で厳しい環境下でも笑顔を失わず力強く生きてきた女性。そんな彼女の明るさと強さに惹かれたという学はいいます。

そして学は、結婚したら会社を辞めて父・誠治と同じ陶芸家の道を歩みたいと語ります。貧しく苦労し続けた誠治は「甘い世界じゃない!」と反対しますが、学の決心は揺るぐことなく、彼は最後の仕事のためにナディアとアルジェリアへ戻ります。

しかし、悲劇が訪れるのです……。

【エリートを爽やかに演じきった吉沢亮】

映画『ファミリア』でまず感動したのは、吉沢亮さんの柔軟な演技力! 

主演映画『ブラックナイトパレード』では、就活で負けっぱなしのポンコツ男子を演じた吉沢さんですが、本作では正反対のエリート好青年なんです。

とてもまっすぐで素直な性格。彼の心が澄んでいるから、笑顔が素敵で純朴なナディアに惹かれたんだろうな〜と思いました。

何よりグッときたのは、吉沢さん演じる学が父である誠治をとても尊敬しており、陶芸家として我が道を行く父への思いを隠さないことです。

実家に帰ってから、学が「父さん、父さん」と呼んで笑顔を見せるたびに、見ているこちらもほっこりしますよ。

【父と息子の理想的な関係】

しかし対する父・誠治は、どこか息子のまっすぐな思いに戸惑っているような感じがあるのです。

というのも児童養護施設で育った誠治は親の愛を知らないため、優秀な息子を誇りに思いつつ、どう接していいのかわからないのではないかと思いました。

そんな父の気持ちを知ってか知らずか、会えなかった時間を取り戻そうとグイグイと距離を縮めてくる学。

「会えない時間や環境の変化で、父子の心の距離が離れてしまう…」ということはありそうですが、学の場合はその真逆。離れていたからこそ、父親ともっと近づきたいと思うのです。

しかも、甘えや依存ではなく自立した男が「父のようになりたい」と思ってのこと。それがとてもいい関係だと思いました。だからこそ、そのあとに起こる悲劇が辛いのです……。

【ブラジル青年との絆とこの映画の背景にある世界】

映画『ファミリア』は、誠治と学の親子関係と同時進行で、近所の団地に住むブラジル青年との関係も描いています。

半グレ集団(ボスを演じるのはMIYAVIさん)にボコボコにされたマルコス(サガエルカスさん)を助けたことをきっかけに知り合い、ブラジル人ファミリーと交流を持つようになる誠治。彼はマルコスを助けようと行動に出ていくのです。

ブラジル人を敵視する半グレの差別と偏見。

学の身に起きた悲劇も2013年にアルジェリアで実際に起こった事件がベースで、この映画の背景にはいくつかの社会問題が横たわっているのです。そして、誠治はそれらと対峙します。

結局、人を “傷つける” のも “助ける” のも「人」。

だからこそ何が正しいのか、何を信じるのか、目の前で起こることに目を逸らさずにいなくてはと思いました。

そして、この映画で、誠治がブラジル人の家族たちと仲良くなっていくように、言葉の壁、国の壁を超えて、みんなが思いやりを持って仲良くなっていければいいとも。

吉沢亮さんが演じる好青年・学にドキドキしつつ、そんなこともしみじみと考えさせられる映画でありました!

※映倫:PG12

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2022「ファミリア」製作委員会

『ファミリア』
(2023年1月6日より全国ロードショー)
監督:成島出
出演:役所広司 吉沢亮 /
サガエルカス ワケドファジレ
中原丈雄 室井滋 アリまらい果 シマダアラン スミダグスタボ
松重豊 / MIYAVI
佐藤浩市