【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、ヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』(12月22日公開)です。
都内の17ヶ所の公衆トイレを改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」を元に制作された映画で、主演の役所広司さんが第76回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞した作品。試写で観せていただきましたが、これが素晴らしくて。
個人的には今年ナンバーワンの映画です! では、物語からいってみましょう。
【物語】
平山さん(役所広司さん)は、東京・渋谷でトイレの清掃員として働いています。毎日同じ時間に起きて、自動販売機で缶コーヒーを買って、仕事に向かうというルーティーンを守っています。
そんなある日、思いがけない訪問者が現れるのです。
【主人公の日常に見入ってしまう】
映画を観終わったあと、すぐに「今年のベスト1位」だと確信しました。
現代に生きる人の何でもない日常をこんなにも美しく描き、幸福感を与えてくれる映画はあっただろうかと。もう……感無量です。
平山さんの毎日は同じことの繰り返しですが、とても丁寧に暮らしています。トイレ掃除の仕事も完璧な仕事っぷり。
同僚のタカシ(柄本時生さん)は「平山さんは真面目すぎる。もっといい加減でいいのに」と言ったり、わがままを言ったりするいい加減な青年ですが、平山さんは怒ったりせずに聞き流したり、助けたりするんです。
仕事が終わると、いつもの居酒屋で酒を飲み、帰宅したらカセットテープで音楽をかけたり、枕元のランプの光で読書をしたり……そんな毎日。
でも、それが彼にとって “パーフェクト・デイズ”。平山さんがとても生活を大切にしているのが伝わってきて、生きるってこういうことか……と気付かされるんです。
【同じ日なんて1日もない】
毎日同じことを繰り返していても、同じ毎日はないことを平山さんは教えてくれます。
天気こそ毎日違いますし、誰かと少しだけ会話を交わしたり、突然人が尋ねてきたりすることもあります。仕事がいつも通りに終わらず、ルーティーンが崩れたり、ときにはがっかりすることだったり。
でもそんなふうに、小さな出来事の積み重ねで人生は築き上げられていくんだなと思いました。
私たちが見失っている幸せのかけらを、この映画はひとつひとつ拾い上げて大切に包み込んでいる……。それを見て「生きているだけで幸せじゃん」って思えたんですよ。
【ヴィム・ヴェンダース監督のセンスが溢れてる!】
日本を舞台にした日常の風景を映画化したのはドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督。平山さんの趣味にヴェンダース監督のセンスが溢れています。
平山さんが暮らす家は殺風景ですが、だからこそ読書家の彼が古本屋で購入する文庫本、カセットテープで聴く音楽が映えるんです。同時にとても感性が豊かでセンスのいい人なんだというのが伝わってきます。
物を持たない、人に期待もしない、そんなミニマリストな平山のライフスタイルがとても美しい……。
また東京のユニークな公衆トイレの数々が登場するのもが楽しいし、平山さんが好んで聴くルー・リード、オーティス・レディング、パティ・スミス、ローリング・ストーンズなどの音楽もめちゃくちゃいい〜! 久々にサントラ盤が欲しくなった映画でした。
【ヴェンダース監督と役所広司の見事なケミストリー】
役所さんはセリフがほとんどない役ながら、行動や表情で平山というキャラクターを浮かび上がらせていてさすが!
ヴェンダース監督は役所さんにはセリフを与えなくても、平山としてスクリーンで生きることができると信頼をして演出したのでしょう。素晴らしい才能と才能が見事に溶け合って……。もう最高です!
この映画は人生に迷ったときに観たい。日常の小さな輝きは人をホッとさせてくれる力がありますし、何より生きることを楽しむ気持ちにさせてくれる! ぜひ大きなスクリーンで見て、幸せを噛み締めていただきたいです。
執筆:斎藤 香 (c)Pouch
Photo:(c)2023 MASTER MIND Ltd.
『PERFECT DAYS』
(12月22日よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロ ードショー!)
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
配給:ビターズ・エンド
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
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