【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは映画『銀河鉄道の父』(2023年5月3日公開)です。宮沢賢治役を菅田将暉さん、その父を演じるのは役所広司さんという日本映画界を代表するふたりの俳優が親子役で共演する話題作です。

試写で鑑賞しましたが、家族映画として本当に見応えのある作品でした。では、物語から。

【物語】

質屋を営む政次郎(役所広司さん)の息子・賢治(菅田将暉さん)は、跡取りとして大事に育てられますが、賢治は質屋の仕事を継ぐ気が全くありません。農業や人造宝石などに夢中になり、やがて宗教にのめり込んで家族を振り回したあげく、賢治は家を出ていってしまいます。

しかし、賢治の妹のトシ(森七菜さん)が結核に倒れたと知った賢治は家族のもとに戻り、彼女のために物語を紡ぎ、読み聞かせるのですが……。

【自由人だった宮沢賢治】

作家としていまだに語り継がれるほど人気のある宮沢賢治。「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」が有名なので、想像力が豊かでありながら、地に足のついた人なのではないかと思っていましたが、かなり自由奔放だったことに驚きました。

賢治は何かに興味を持つと居ても立っても居られない……やんちゃな子どものような一面があるんです。

【お父さんの賢治愛が熱い!】

この映画は『銀河鉄道の父』のタイトル通り、宮沢賢治の人生を父&家族目線で描いた物語。賢治は自由奔放すぎて共感を得るのが難しいキャラクターですが、家族はそんな賢治を見守り、支えていく。

家族目線で描いたからこそ、その温かさが伝わる作品になったのではないでしょうか。

なにより、父の政次郎さんは器が大きい人物! 後継者にしようとしていたので最初こそ対立しますが、賢治の個性や冒険心に富んだ心を全てを受け入れ、結局は彼のやりたいようにさせますからね。

家業の存続よりも何よりも子どもの人生を大切にするお父さん。タイトルロールになる父親なだけあって、すごく愛情深いんです。

それに、「子どもの世話は母親が…」なんて政次郎は思っておらず、本当にいいお父さんなんです。

【宮沢賢治が文才に目覚めたとき】

本作を見ていると、宮沢家は本当に家族みんなが支え合っているのが見えるんです。

妹のトシが病に倒れたとき、家を出ていた賢治もすぐにトシのもとへ戻りますからね。そこで彼は妹を元気つけようと物語を綴り、読み聞かせをしたことをきっかけに文才に目覚めるのです。

妹が亡くなったあとは、ショックで創作活動ができなくなりますが、そんな賢治のお尻を引っ叩いたのは、やっぱりお父さん!「才能あるんだから」と賢治の背中を押すお父さんにまたもや胸アツでしたよ。

【菅田将暉と森七菜の渾身の演技に泣く】

本作はベストキャスティングといっても過言ではありません。

威厳と品格がありながらも、情が深く、理解もある父親は、役所広司さんが演じたことでどこか華やかさも加わりました。その息子・宮沢賢治を演じた菅田将暉さんは、奔放さの中に母性をくすぐる可愛さも垣間見せながら「永遠の少年」のような賢治を生き抜いていました。

そして、菅田さんと同じくらいの存在感を持って妹トシを演じた森七菜さん!

映画出演は2021年の『ライアー×ライアー』以来ですが、賢治の1番の理解者であるしっかり者の妹を力強い演技で見せてくれて、「もっと映画で森七菜を観たい!」と思わせてくれました。

宮沢賢治と妹のトシは若くして天国へ行ってしまうのですが、この映画はそれぞれの最後をじっくり見せていきます。家族に囲まれ、命の灯火が消える瞬間を見ていたら、早く逝ってしまったことは残念でならないけれど、こうやって家族に囲まれて旅立てるのは幸せなのかもしれないと……。

菅田さんと森さんの渾身の演技は必見です。

感動映画が観たいな思ったら『銀河鉄道の父』、オススメですよ。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

銀河鉄道の父
(2023年5月5日より全国ロードショー)
出演:役所広司 / 菅田将暉 森七菜 豊田裕大 / 坂井真紀 / 田中泯
監督:成島出
原作:門井慶喜「銀河鉄道の父」(講談社文庫)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会