【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは広瀬すず主演映画『一度死んでみた』(2020年3月20日公開)です。意外にも広瀬すずちゃん、コメディ初挑戦なんですよ。加えて共演陣がハンパなく豪華。吉沢亮、堤真一だけじゃなありません。妻夫木聡や佐藤健など、わき役まで主演級の俳優たちが勢ぞろい。すごいメンツで、とにかく見どころ満載なのです。では物語からいってみましょう。

【物語】

女子大生の七瀬(広瀬すず)は、母(木村多江)の亡きあと、父親と二人暮らしですが、父・野畑計(堤真一)がうっとおしくて大嫌い。デスメタルバンドのボーカルでもある彼女は「死んでくれ」という気持ちを歌にのせて、日々絶叫していました。そんなある日、野畑製薬の社長であり研究者の計が本当に死んでしまいました!

彼の会社が開発した「2日間だけ死んじゃう薬」を服用しちゃったのです。2日後には生き返ると思ったものの、その死を利用して、計を火葬しようと企むライバル社が出現。「お父さんが永遠に葬られてしまう!」と焦った七瀬は、父の部下の松岡(吉沢亮)と共に、父を生き返らせるために奔走するのですが……!

【広瀬すずは監督次第で輝く女優】

結論から申しますと、くだらなくて面白かったです! 個人的には「女優・広瀬すずの魅力は監督次第」と思っており、是枝裕和監督作『海街dairy』や李相日監督作『怒り』、岩井俊二監督作『ラストレター』を観て、彼女は演出の力でいくらでも輝ける女優だと思っていました。

でも本作を観たとき、冒頭、父親のことが大嫌いという反抗期を引きずる七瀬を絶叫演技で見せるすずちゃんを観て、正直、ちょっと引いちゃったんですよね。しかし、救世主が現れましたよ。それは堤真一さん、リリー・フランキーさんという演技派のお二人です。

【死んだ父親と死神が作品を生き返らせた!】

とにかく堤真一さんが良かったです。おかしな表情で棺桶に入ったり、幽霊になって出て来たり、研究者一筋で風変りな様子を見せながらも、亡くなった妻や娘への愛情をしっかり感じさせる、コミカルながらも奥深い演技で、すずちゃんをしっかり受け止めていました。突飛な物語の中に、親子愛の感情の流れを感じさせたのは堤さんの演技あってこそ!

その堤さんを好サポートしていたのが死神を演じるリリー・フランキーさん。父と娘の間に入ってチャチャ入れたり、盛り上げたり、堤さんの相棒としての務めをしっかり果たしていました。この二人のコンビ、好きでした~!

【人気スターがちょい役で総出演!】

加えて、七瀬の相棒となる存在感ゼロの社員・松岡を演じる吉沢亮さんは『キングダム』のときのオーラとカリスマ性を全消しして。残念なイケメンくんとして登場。

不器用ながら一生懸命に七瀬を守ろうとする姿は好感度高めで、とっても可愛い吉沢亮が拝めます。また本作にはちょい役で、主演級のキャストが続々登場。妻夫木聡、佐藤健、池田エライザ、古田新太、竹中直人、西野七瀬など。誰がどこで出演しているのか探す楽しみもありますね。

【三太郎CMを作った浜崎監督のギャグはベタ一直線!】

本作の浜崎慎治監督は、CMディレクター。KDDI/au「三太郎」、日野自動車「ヒノノニトン」家庭教師のトライ「ハイジ」など数々のCMヒット作を生み出したディレクターで、この映画は映画監督デビュー作。

人差し指を突き上げる「~デス!」という決めポーズを作るところに、数々の流行を作ってきた広告業界人らしい戦略を感じたり、真剣な場面で茶化したり、観客にフェイントかけてくるコメディ演出は福田雄一監督風?と思ったり。浜崎監督のCMもコミカルな作風が多いことを考えると、こういう笑いが好きなんですね。CMクリエイターが監督した映画は、妙にスタイリッシュな映像が差し込まれたりすることがありますが、本作はあくまでベタな笑いで徹底的にくだらなく突っ走っていたのが良かったです!

不安なこといっぱいある世の中ですが、堤さんやリリーさんの名コンビぶりにゲラゲラ笑って、すずちゃんと吉沢くんの可愛さに癒される映画もいいもんですよ。気軽に観られるし、ややこしいストーリーではないので子供でもOK。にぎやかで楽しいファミリー映画としていかがでしょうか~。

執筆=斎藤 香 (c)Pouch

一度死んでみた
(2020年3月20日より、TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー)
監督:浜崎慎治
出演:広瀬すず、吉沢亮、堤真一、リリー・フランキー、小澤征悦、嶋田久作、木村多江、松田翔太、加藤諒、でんでん、柄本時生、前野朋哉、清水伸、西野七瀬ほか
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