福島県郡山市。原発から約58キロの県のほぼ中央に位置し、連日2.0マイクロシーベルト前後の放射線量が測定されるなど市民の不安は募る一方です。

しかしながらここでもまた、原発付近から避難に訪れた3000人近い人々が不便な生活を送っています。

郡山市内で、最も避難者数が多い「ビックパレットふくしま」には、富岡町と川内村から約2000人が避難しています。彼らはどのような思いで避難生活を送っているのでしょうか。

普段は展示やイベント会場として使用されるこの施設。今から12年程前に県が建設したもので、鉄骨造地上4階、地下1階、50000m²の敷地面積を誇ります。普通の体育館よりも福祉的な設備が備わっているため、数ある避難施設の中でも住みやすいはず。記者は、そう密かに期待をしていたのですが……。

取材をした日は、震災からちょうど1カ月目の4月11日。奇しくも天気は雨でした。天候の悪さに比例して、避難者の心を表すかのように会場全体がどんよりと曇って見えます。入口を入った先の通路には、避難者を始め、各メディアの報道陣や施設のスタッフ、ボランティアが入り混じり、忙しなく行き来していました。

壁一面、無数の安否情報などが張り巡らされた通路を通って中に入っていくと、すぐに避難者たちが寝泊まりする居住区が。たくさんの人が密集して長時間過ごしているため、「むん」とした独特のにおいが鼻をつきます。空調はきいているはずですが、決して清浄な空気とはいえないようです。

避難場所は広いホールの中にあるのかと思いきや、1階の避難エリアは通路にありました。通路といっても、空間が広く、床は絨毯使用で暖房設備が整っています。段ボールで区切りがされ、なんとかプライベート空間を作ろうという努力がそこかしこに見られます。

しかし、人々が寝泊まりするすぐ隣を、避難者やスタッフだけではなく、多くのメディアが頻繁に行き来します。これでは、避難者の気持ちが休まることはないでしょう。そして、まぎれもなく自分もそのひとりであるということに気が滅入ります。

ふと周囲を見ると、避難者たちが一角に固まっていました。彼らが見つめる先にはテレビが設置され、NHKが「原発安全・保安院、及ばないところがあった」というニュースを報道しています。彼らはどんな気持ちで、この報道を見つめていたのでしょうか。あまりにも真剣な横顔に、声をかけることができませんでした。

施設の裏口を出ると屋根が付いた屋外で、子供たちが元気に遊んでいました。子供たちの活気を見ていると、気持ちがホッとします。避難所で、せめてもの救いといえるかもしれません。ここには男の子しかいなかったので、女の子たちがどうしているのか少々気がかりです。

屋外の喫煙所で一服していた、富岡町からお越しの男性(63)にお話しを伺ってみました。

――毎日どのようなことをして過ごしていますか。

「毎日、ただひたすら寝て起きてご飯を食べる。先が見えない生活に気が滅入ります。たまに避難所近くのレストランなどで外食をして気分転換するけれど、働いていないから好きに使うわけにもいかない」

――避難所ではどのような食事が出されますか。

「毎日だいたい同じメニューで、おにぎり2個づつ、そして、うどんなど、炭水化物が多い」

――避難所の環境はどうですか。何か必要なことはありますか。

「寒かったり暑かったり、場所によって温度差があります。暑くて半袖でいることも。ただ、ホコリがすごいのが辛いです。ほかに求めることは特にない」

――ご自宅が心配かと思いますが。

「飼い犬を繋いだまま置いて来たのが心残りだが、どうすることもできなかった。諦めるしかない」

男性は誰に怒るでもなく、静かに話してくれました。ときには笑みを浮かべながら。終始優しい表情は、悲惨な現実からはあまりにもかけ離れていて、その表情を思い出す度に原発事故が夢だったら良いのにと願わずにいられません。

体力のある若い避難者たちは、避難所の手伝いをしていました。キビキビと働く姿が印象的です。ほんの少しだけ記者が手伝うと、「ありがとうございます!」と、爽やかな声が返ってきました。訪問者が救われる瞬間です。
そこからすぐ近くにあった大きな貯蔵室には、たくさんの物資が補充されています。十数個用意されたポットには、カップラーメンと書かれており、インスタント食品が頻繁に食べられていることが想像できます。ほかには、ミネラルウォーターが無数に常備されています。

貯蔵庫からほど近い屋外で、これまでに見たこともないような大きなカマドを発見。ここで約2000人分の煮炊きができるのでしょう。雨天の中では作る方も、並ぶ方も大変そうです。

そして室内の通路には、全国から届いた応援メッセージなどが壁に張り出されています。被災者にとって、他地域からの応援の声はとても心強く、心の支えとなっていることでしょう。

先が見えない避難生活の中で、人々は生活への手がかりをなんとか見つけようとしています。

他県へ避難した先では差別され、子供たちは学校ではいじめられるなど、行き場のない悔しい思いをする避難者が多いようです。皆さんのお近くに福島県から避難される人がいましたら、正確な知識の元、どうか温かく接して欲しいものです。

原発による放射能問題は、私たちが電気を使っている以上人ごとではありません。原発反対に賛成する方も多いと思いますが、代替エネルギーが十分に開発されていない中、はたして日本人は、電気に恵まれた便利な生活を諦めることができるのでしょうか。

(記者=山田ゆり)

参考:ビックパレットふくしま (http://www.big-palette.jp/