世界中から注目されているタイの洪水。被害が大きいタイ東北部や中部、先日、避難勧告を出されたばかりの首都バンコク北部に関する情報は聞こえてくるが、そうでない地域の情報はまだまだ少ない。

そのため、まったく洪水被害のない地域への旅行にも関わらず、キャンセルする旅行客が多いようだ。

いったい、タイは今どういう状態なのだろうか?

昨日ご紹介した、大河チャオプラヤ川の近くに位置し、バンコク市内でも特に海外の若者が集中して滞在するディープなエリア、「カオサン」周辺の様子。

相変わらず熱気溢れる普段のカオサンだが、いつもと違うのは「防波堤となる“土のう”」 が店の前に高く積み重ねられている点だ。“土のう”  だけでなく、なかにはコンクリートなどで膝上ほどの高さの壁を作っている店も多く見られる。

とはいえ、まったく何もしていない店がほとんど。こんなことで、大丈夫か? と逆に心配になってしまうが、“土のう” ひとつ約45バーツ前後(約135円=屋台料理1食分)というから、十分な個数を準備するのは予算がないと難しいのかもしれない。

【バンコク中心部の洪水状況】

さて、北部では避難勧告が出されたが、バンコク中心部はカオサン同様、一見目立った被害はない。むしろ、いつも通りすぎて不安な心地でやって来た海外旅行者は拍子抜けする人が多いという。

しかし、注意して欲しいのはバンコク市内でもエリアによって状況がガラリと違うということだ。それも、かなり細かいエリアに分散されている。特に旅行客があまり足を運ばないようなチャオプラヤ川付近の路地などが、水で溢れていたりする。

【一部の路地裏は放流状態】

23日夕刻、カオサンからほど遠くない王宮(ワット・プラケオ寺院)の近くにある、地元住民が住むエリアを取材した。

トゥクトゥク(三輪車タクシー)で冠水エリアに近づくと、それまで乾ききっていた道路が、雨が降ったあとのように濡れている。……と思ったら、道路全体が水びだしになっているではないか。気づくと水深20~30センチほどのなかを水しぶきを上げながら走行している状態になった。思わず、「えぇえぇぇぇ……!!!」と驚愕の声を上げずにはいられない。

まるで大雨が降り、水はけが悪くなったときのような状態だ。ほかの自動車や人も、水のなかを平気で通り抜けてゆく。みんな、これくらいの冠水には慣れているのか実に平生としている。呆然とはしているが、まったく動じていない。

冠水している距離は、およそ100メートルあるかないか。このように、ところどころ冠水する地域がバンコク市内中心部にも存在する。

少し時間が経ったあと再度戻ってみると、道路の水は大分減っていた。だが、家屋と家屋の間にある細い道からは、相変わらずものすごい勢いで川の水が流れ込んできていた。路地の入り口を“土のう” で固め、排水溝へ流しているため道路へはなんとか流れ込まないが、思わず身がすくみそうになる迫力。足を滑らせでもしたら、あっという間に吸い込まれてしまいそう。

そんなスゴイ流れのなか、路地の奥へとエプロンを付けた地元のおばさんが悠々と歩いていく。きっと奥に自宅があるのだろうが、部屋はどんな状態になっているのだろうか。心配になる。

さらに、隣にある靴屋の店内からも水が流れてきていた。店内は10センチほど冠水状態。悲惨としか言いようがない。ほかの家々は問題なさそうなのに、なぜこの家屋だけが?

とにかく店主たちは、時折ほうきで水を掻き出そうとしているが、なす術なしといった感じで呆然としていた。そして、その様子を取材する地元メディア。旅行者は欧米人カップル1組以外は、ほぼ地元の人だった、と思う。

バンコク中心部は、このような状況である。大変近い距離にあっても、洪水になるところと、問題ないところに細かく分かれている。そして外国人が普通に旅行するバンコク中心部の主要な観光地は、今のところまったく問題ないといっていいだろう(23日現在)。洪水エリアの付近に位置する王宮の見学だって、仏像巡りだって、無論差し支えないから安心して旅行して欲しい。

だが、口を酸っぱくして言う。状況は刻一刻と変化しているのだ。本日もツアーがすべて中止になったばかり。また、バンコク市内は全域冠水するという情報も入ってきた。

いまバンコクに滞在している方は、当然ながら自ら危険な場所へ行かないことが安全な旅の条件。冠水している場所へ自ら行くべきではない。正確な洪水情報を取り入れ、常に危機感を持って行動することが身を守る秘訣なのだ。

(取材、写真、文=めるりんこ)

▼今回行った洪水エリア。冠水していたのは、このなかのほんの一部エリアである
(※明記した洪水地域は、記者が実際に確認できた場所だけである)

▼徐々に水が流れてきた!

▼少し行くと、途端に水カサが増す。それまでの平穏な雰囲気がウソのようだ

▼もはや住民たちも、なす術がない

▼果敢にも原付バイクで走行。エンジン大丈夫か?

▼土のうを積んでいる向こう側から水が押し寄せている

▼ものすごい勢いで路地裏から流れ込んできている

▼“土のう” の境界。右側の洪水地帯に、足を滑らせないよう気をつけないと…

▼コンクリート壁は役に立ったのだろうか?

▼バスを待っているのか、野次馬か、まったく不明。ただみんな呆然としている

▼欧米の旅行者カップルも呆然としている

▼こちらは路地裏の旅行店。足ずぶ濡れになりながらも営業中

▼水は靴屋店内からも、いやおうなしに流れてくるのだ

▼もはや、ほうきで掃く気力もなし

▼湧き水のように懇々と流れてくる。もう商売にすらならない

▼[動画] 路地裏と靴屋さんの洪水被害