今月10日からの大雨により、タイの古都アユタヤ遺跡などを含む東北部と中部を中心に襲った大洪水。これ以上被害を拡大させまいと、タイ政府があらゆる手段を使って洪水を妨げようとしてきたが万全とはいかないようだ。

「バンコク市内も洪水に襲われるのではないか?」

と、この数週間バンコク市民の間で懸念されてきた。だが、誰にもハッキリとしたことはわからなかった。洪水になるかもしれないし、ならないかもしれない……。

そんななか23日深夜(日本時間未明)、首都バンコク北部が冠水で危険な状況になる恐れがあるとして、バンコクのスクムパン知事は6地区の住民約10万人に避難を勧告。報道によると、1メートル近くまで冠水する恐れがあるという。

日本で洪水といえば、被害の大小に関わらずザーっと来てザーっと引いていく「あっという間」なイメージがあるだろう。だから、タイの洪水が何週間も続いていると聞いてもイメージが掴みにくい。

そう、タイの洪水はまるで蛇の生殺しのようにジワリジワリと時間をかけてやってくるのだ。バンコク市内を流れており複数の河が合流する大河、チャオプラヤ川の流れに合わせて、それはそれは、ゆっくりと。日本のそれよりも大規模で、日数が経たないとどこにどんな被害が出るのか正確な情報を掴むことができない。

そういうわけで、まだバンコク市内で水害が出ていない地域の人々も、気が気ではない不安な日々を過ごしている。

【バンコク市内(主要観光地)の洪水対策は】

ところで彼らはどんな洪水対策をしているのだろうか? 23日、バンコク市内を取材することにした。

まず、バックパッカーの聖地『カオサン』へ。カオサンは、比較的チャオプラヤ河の近くに位置している。河は無関係だが、この通りは年に数回やってくるスコールともなると一気に洪水を起こすエリアだ。無論、バカ騒ぎが好きなバックパッカーにとっては、格好の騒ぐ口実となるわけだが(失礼)。

そんなカオサンだが、いったい今どうなっているのだろうか?

きっと旅行者が激減して閑散としているに違いない……もしくは既に水が到達しているかも? と思ったら、予想は大きく外れた。通りやレストランには世界中から集まった旅行者で溢れ、お土産を売るタイ人面々も「コニチハ!」「ニホンジン デスカア?」などと陽気に声をかけてくる。

どこをどう見ても、熱気と活気に溢れたいつも通りのカオサン。通常営業である。

だがやはり、通りの隅に目をやるといつもとは事情が違うことがわかる。ホテルやショップの入り口付近には、大量の「土のう」が積まれているのだ。しかも、数日前に積み上げたものではなく、今まさに必死になって積み上げている。現在進行形だ。トラックの荷台に大量に詰まれた土のうを降ろし、整然と並べている!

いったい、どんな事態が想定されているというのだろうか? まったりとしたマイペンラ~イなムードのなか、着々と進められる防水対策。なんとなく気味が悪い。

さらに、カオサン通りの近くにあるサムセン通りでは、ショップの入り口を、コンクリートで約50センチほどの高さに固めていた。“土のう” よりも完璧な水害対策に見える。

作業をしていたタイ人男性によると「万が一洪水が来た場合は水深50センチくらいになる。水が引いたら塀は壊す。ここ2~3日が山場だね」という。ほかのタイ人は「今月30日までに何もなければ洪水被害は免れるだろう」とも。とにもかくにも、ここ数日が正念場というわけだ。

ところで、この約50センチの壁をまたいで店内に入るのは、大人の男でも結構大変そうだ。客足は遠のくのか、それとも安全地帯だからという理由で増えるのか? 売り上げの変動が気になって仕方ない。

そもそも、本当に洪水になったら店には誰も近寄れないのではいだろうか。ならば一層、歩道ごと囲んでしまった方が良かったのではないか……と思うのは、事情を知らない者の勝手な意見だろうか。

カオサン付近に数ヶ月泊り込んでいるという日本人男性はこう話す。「ほかの外国人旅行者たちは、被害が出にくそうな市内中心部へ移動したけど俺は逃げない。洪水になったら、ゲストハウスの部屋に数日いれば良いし、水とか少し分けてもらえれば問題ない」。

ちなみにカオサンに来る日本人観光客の姿が、いつもより若干少ないように見えたのだが、彼が宿泊するゲストハウスには多くの日本人が滞在しているという。

2泊3日で友人2人と共に観光に来た日本人男性(30代)は、洪水は怖くないか? との問いに対し、「ちょっと不安だったが、1カ月前から準備していたので来ることにした。市内の道路など冠水していると思っていたが、何事もなくむしろ意外だった。日本で報道される情報だけではわからないことが多い」と話す。

確かに、海外のニュースでは洪水被害の地域を重点的に報道するため、どうしても「タイ全土=冠水」のようなイメージが付きやすい。これは3月の大震災でも同様で、海外では日本全土が放射能汚染されたかのように認識する人もいた。そうなるとおのずと旅行者が減り、観光で潤う街は大打撃となってしまう。悲しいかな報道の盲点である。

バンコク市内の主要観光スポットは、まだ洪水の被害はない。平和そのものだ。ただ、場所によってはカオサンからタクシーで少し走ったところでも、一部冠水しているところがある。観光客が立ち寄る場所ではないが、とにかく旅行の際は、水かさが増している河の付近にはあまり近づかない方が懸命だろう。

次回、カオサン付近でチャオプラヤ川の水が溢れたエリアをご紹介する。いったいバンコクはどんな状況にあるのか、リアルな現状を確認して欲しい。

(取材、写真、文=めるりんこ)

▼位置はこんな感じ。すぐ近くをチャオプラヤ川が通っている

▲太い川がチャオプラヤ

▼23日現在、お店の入り口にコンクリートの壁を作っているところ

▲ご覧の通りまだ洪水にはなっていない。洪水になるかどうかも不明だ

▼たいていは、“土のう” を積み上げる

▼日にしに高くなってゆく……

▼板で入り口を囲うところもあるぞ

▼いつもと変わらない熱気に包まれるカオサンの夜

▼マックの前も“土のう” でガード

▼その横で優雅にマッサージをしてもらう旅行者たち

▼虫売りおばさんも通常営業だ
むやみに写真を撮ると10バーツ(約30円)要求されるぞ

▼こうしてカオサンの夜は何事もないかのように更けてゆくのだ

▼水カサが増しているチャオプラヤ川
見学にやってくる住民が絶えない

▼[動画] タイ・バンコク市内の洪水対策