【公開直前☆最新シネマ批評】映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。今回のピックアップは明日19日公開の映画で、1986年に起こったチェルノブイリ原発の事故をひとりの少女の生活を通して描いた『カリーナの林檎 チェルノブイリの森』です。
本作は2003年に制作されていましたが、当時チェルノブイリ原発の事故が日本では風化されてしまい、なかなか公開に踏み切ることができなかったようです。しかし、東北大震災、福島原発の事故による放射能の危険性に敏感になっている今、公開されることになりました。まさに今こそ見るべき映画になっています。
本作はドキュメンタリーではなく完全なるフィクション。監督やスタッフがチェルノブイリとその周辺をしっかり取材。ヒロインのカリーナのモデルになった少女もいるそうです。
舞台はチェルノブイリのあるウクライナの隣国ベラルーシ。ヒロインにとって、その地は家族とともに暮らしていた場所。でも原発の事故の影響で、父はモスクワに出稼ぎ、母は病に伏してしまう。おばあちゃんはチェルノブイリに近いにもかかわらず「家を離れたくない」と動かない……。
福島から避難しても「やっぱり故郷に帰りたい」という福島の方たちの姿とこの映画のおばあちゃんが重なります。また放射能は目に見えない分、本当にたちが悪いなとつくづく感じます。カリーナが「空も青いし、森も川も変わらない。木にはおいしそうな林檎もなっているのに、なぜここにいてはいけないのか」と思っているからです。大人より子供のほうが実感として理解できないのでしょう。
この映画はスポンサーが付いていたわけではなく、完全に今関監督の自主製作、インディーズ映画です。「どうしても映画化し、原発事故を風化させたくない」という監督の想いがいろいろな人を動かし、機材、現地コーディネーター、通訳、スタッフが集まり、現地ではオーディションにより出演者を決定しました。
そしてクランクイン。放射能による影響で病に伏した人、取材や撮影中に亡くなった人もいるそうです。そしてこの映画のモデルになった少女も取材中に天国へ……。
映画は厳しい現実も少女の目というオブラートに包んでいるので、目を覆いたくなるようなシーンはありませんが、ひたすら切なく哀しい……。でも撮影現場はもっと壮絶だったでしょう。
製作当時公開のめどが立たなかった本作も、昨年、2011年がチェルノブイリ事故から25年目ということもあり、監督とスタッフは再びチェルノブイリで追加映像の取材撮影を行い、2011年の公開を目指していました。
そんなとき、東北大震災が起こり、福島原発でチェルノブイリと同等のレベル7の放射能が発表されたのです。悲しいことにカリーナのおばあちゃんの家と同じように、放射能が身近になってしまったわけです。
そんな今だから公開することに意味がある! 見えない悪魔=放射能で崩壊されていく家族と失われていく命のはかなさには胸が熱くなることでしょう。
(映画ライター=斎藤香)
11月19日公開
監督:今関あきよし
出演:ナスチャ・セリョギナ、タチアナ・マルヘリ、リュディミラ・シドルケヴィッチ、
イゴリ・シゴフ、オルガ・ヴォッツほか
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