[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは生存率50%のガンと宣告された青年を描いた『50/50フィフティ・フィフティ』。病と闘う物語は、ほぼ99%が涙涙の感動作ですが、この映画はなんとコメディ! これまでの難病映画とは違う、一風変わった映画となっています。

本作は脚本を担当したウィル・レイサーが体験した実話が元になっています。レイサーは20代でガン宣告を受け、その病を克服した経験があるのです。

この映画は、彼がガンに倒れたとき、一緒に仕事をしていたプロデューサーのエヴァン・ゴールドバーグとセス・ローゲンの言葉から始まります。ふたりは病と闘う彼に、脚本を書くように勧めたのです。本作で主人公の親友役で共演もしているローゲンは、

「ウィルがガン宣告を受けたのはショックだったけど、体調が悪い原因がわかったのはよかったと思う。絶対に治ると信じていたからね。それに若い男がガンと闘う映画ってあまりなかったから、脚本にしたらいいんじゃないかと。セスはちょっと神経質だけど、おもしろい男なんだ」とのこと。

しかし、脚本化は難航! 何しろレイサーは入院中。リンパ以外にも背骨に巨大な腫瘍が見つかり大手術をするなど大変な治療をしていたのです。そんななか、サクサクと執筆が進むわけはなく、執筆には丸2年かかったそうです。が、でき上がった脚本は、闘病中に体験した日常の出来事を実にコミカルにユーモアたっぷりに描いた作品として仕上がっていました。

ウィル・レイサーの分身とも言うべき、主役のアダムを演じたジョセフ・ゴードン=レヴィトは、最初「ガンになった青年のどこがおかしいのか、わからなかった」と語っています。でも役作りのために多くのガンと闘う人々に会った彼は考えが変わったそうです。

「ガンに侵されることは悲劇だけど、克服した人の話にはユーモアもあった。悲惨なことに直面することもあるけれど、その中で笑えることを見つけることは大切だよ。すごく健全なことだと思う」と。

また脚本家のレイサーやスタッフはリアルを追及し、アダムの診断シーンに登場するMRIやCATスキャンの画像はレイサー自身の物を使用しました。女の子をナンパするエピソードも本物です!

「闘病中にも女の子と付き合ったよ。実際、病気のことを話すと彼女たちは心を開いてくれるんだ。デートが簡単にできるということがわかった」とレイサー。

しかし、映画でアダムは化学療法の治療を受けるけれどもレイサー自身は受けていないなど、事実と違うこともあります。それはレイサーが「この映画は自伝ではない、フィクションとしてドラマチックにしたい」という思いがあり、綿密にリサーチして書きあげたそうです。

コメディとはいえ、アダムは治療に苦しみ、衰弱もしていく。でも病になっても生ある限り、彼らには日常があり、生活がある。そりゃ恋だってするでしょう。ガン患者たちの日常を描き、笑ったり悩んだりしながらも前を向いて歩いていく姿はすがすがしく、味わったことのない新鮮な笑いと感動を与えてくれる『50/50 フィフティ・フィフティ』。元気をくれる映画ですよ。

(映画ライター=斎藤香

『50/50フィフティ・フィフティ』
12月1日より公開中
監督:ジョナサン・レヴィン
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、セス・ローゲン、ブライス・ダラス・ハワード、アナ・ケンドリック、アンジェリカ・ヒューストンほか
(C)IWC Productions, LLC.