[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、6月2日に公開される『外事警察 その男に騙されるな』です。ドラマ「外事警察」の映画化で、メインキャストである渡部篤郎、尾野真千子など外事メンバーは引き続き出演しています。

この映画は人気ドラマ「ハゲタカ」チームが再結集して作られた映画で、堀切園健太郎監督は、ドラマ「外事警察」はもちろん「ハゲタカ」の演出にも加わっていたそうです。陰影深い映像がなんとなく似ている……と思ったのはそのせい?

誰もが「ドラマで人気が出たから映画化に踏み切ったのだろう」と思っているでしょう。実はこの映画、ドラマが始まる直前から映画プロジェクトが走り出していたのです。ドラマの脚本を読んだ岩倉プロデューサーが衝撃を受け、ドラマスタート前にNHKエンタープライズに映画化を持ちかけているのです。

まだドラマが成功するかわからないっていうのに、なんと大胆な! 岩倉プロデューサーの読みは当たってドラマは話題に。「ハゲタカ」以来の興奮をドラマファンにもたらせ、堂々映画化となったわけです。

外事警察とは、国際テロを防ぐために組織された諜報部隊。主人公の住本は、その中でも非情な手口を使ってでも民間人をスパイとして利用する魔物と言われる人物です。映画はウランと軍事ファイルを巡る事件の裏を追跡する物語ですが、その謎を解くために、住本はある人物に狙いを定めます。そして、その男から秘密を得るため、住本は彼の妻に夫をスパイさせるのです……。

この手のドラマが映画になると、やたらと舞台が世界各地に飛んだり、アクションが派手になったり、ロマンス要素が加わったりして、華やかさは増すけれど、その分大味になることが多いのですが、この映画はドラマで描いてきた世界を崩すことなく映画化しています。

何より住本の感情があるんだかないんだかわからないような怖さは映画でも健在です! 協力者にするためにターゲットの過去を調べ上げ、その闇をほじくり出す。それをターゲットにつきつけ、協力せざるをないように仕向けていくという……。えげつない住本の怖さに記者はゾゾーっとしちゃいましたよ! 久々に登場したスリリングなアンチヒーローでしょう。

映画『外事警察 その男に騙されるな』は、「大ヒットさせて、がっぽり儲けようぜ」という野心よりも、このドラマの世界が好きなスタッフが結集して、この世界をもっと成長させたい、より精度のいい作品を……と作り上げた映画のように思います。住本の行動も、部下が抱く住本への疑問も、連続ドラマの続きを見るような感じがなきにしもあらず。このドラマのファンは映画を見て「外事警察が帰ってきた!」と思うのでは?

とはいえ、ドラマを見ていなくても、ひとつの物語として出来上がっているので、外事警察ビギナーでもOK! 「ドラマ見てないし~」と食わず嫌いせず、スクリーンで住本の非情ぶりにゾっとしてください。

(映画ライター=斎藤 香


『外事警察 その男に騙されるな』
2012年6月2日公開
監督:堀切園健太郎
出演:渡部篤郎、キム・ガンウ、真木よう子、尾野真千子、田中泯、イム・ヒョンジュン、北見敏之、滝藤賢一、渋川清彦、山本浩司、豊嶋花、イ・ギョンヨン、キム・ウンス、パク・ウォンサン、遠藤憲一、余貴美子、石橋凌