[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、8月18日から月14日まで限定公開されるドキュメンタリー『石巻市立湊小学校避難所』。2011年3月11日の東日本大震災で地震と津波に打撃を受けた石巻市の人々の避難所生活を追いかけた作品です。藤川監督がこの地で寝泊まりして、避難所生活送る人の姿を映し出しました。
ありのままの姿を映し出しているだけなのに、彼らの言葉が胸に突き刺さったり、彼らの笑顔に生を感じたり、彼らの怒りにとまどったりと、見る方にもいろんな感情が自然と渦巻き、目が離せなくなるドキュメンタリーとなっています。
東日本大震災以来、湊小学校は学校としての機能は停止し、校舎は避難所として使われていました(現在は避難所閉鎖)。そこには多くの人々が同居しており、その様子はまるで大家族のようです。一瞬にして自分の家を失い、中には家族を失った人もいる。そんな彼らにとって避難所はまさに駆け込み寺です。窮屈でプライベートもない生活だけれど、ひとりじゃ生きていけない。被災者の彼らに選択肢などないのです。
彼らは笑顔を振りまきつつも、ときどきポツリと本音をもらします。ボランティアの人々が元気づけようと唄い出した歌に「それは自分たちにふさわしい曲じゃない。わかっていない」と怒る人。小学校が避難所になってしまったために勉強ができず。「どうするのか、子供たちはいつから学べるのか」と、ノラリクラリとした対応の行政にイライラする人。またボランティアなんだか見学なんだかわからない来訪者に傷つく人も……。
そんな人々のなかでも記者がいちばん印象深かったのは、瀕死の状態だったけど、湊小学校にかつぎこまれて元気になった老女の愛ちゃん。どこへ行ってもすぐに誰とでも仲良くなり、活発におしゃべりを楽しみ、みんなに笑顔を運びます。天使じゃないかと思うくらい純粋で素敵すぎる人です。子供たちが彼女になつくのもわかる気がしました。
また福島から自主避難をせざるをえなかった西原さんは、石巻の実家に身を寄せて湊小学校でボランティアをしています。夫婦で東電に勤めていた彼女は、福島に東電批判する人がいるのが納得できずにインタビューで語ります。「東電を擁護する気はない。でも、起きてしまったことは仕方がないのよ」と。
藤川監督は、被災地に出向いて石巻市の人々を見て驚いたことが本作の発端だったそうです。「みんなが明るい」。でもすぐに、それはがんばって明るく振舞って、悲しみを胸にしまいこんでいるのだということに気づいたのです。一緒に過さないと彼らのことを知ることはできないと思った監督は、ずっと寝泊まりして撮り続けた。そうして出来上がったのが本作です。
本作は、湊小学校で生活をする人々の姿を素直に自然に映し出したものですが、おそらくこれはすべてではなく、もしかしたら映せなかった厳しい現実もあったのではないかと思います(記者の推測ですが)。でも映せなかった厳しさを「これが真実だ!」と見せつけるよりも、笑顔と団結力で壊れた生活をひとつひとつ自力で元に戻そうと頑張る姿を見せることが、彼らだけでなく日本の未来に繋がるのだろうなと感じました。
本作はドラマチックに盛り上げよう、泣かせようという見せ方は一切せず、淡々と湊小学校避難所の人々を映しているだけ。でも、そこには優しさと底力があり、それがジワジワと伝わってくるのです。そして、自分がこのような状況になったら「こんな風に頑張れるだろうか……」と思ってしまう。この映画を見ていると、すべてが自分に返ってくるのです。「あなたなら、どうする?」と。石巻市にかかわらず、まだ震災の問題は山積み。でも絶対に風化させてはいけないのです。彼らのためにも日本のためにも、このドキュメンタリーは必見です!
(映画ライター=斎藤 香)
『石巻市立湊小学校避難所』
8月18日より公開 新宿K’s cinema
監督:藤川佳三
プロデューサー:坂口一直、瀬々敬久
撮影:藤川佳三
編集:今井俊裕
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