「そろっていない! 最初から!」厳しい声が飛ぶ。声の主は、マッスルミュージカルの構成・演出・振付を手掛けた、舞台演出家として知られる中村龍史さん。一列にそろった引き締まった身体つきの男女が、また足を踏み鳴らし、手を叩く。飛び跳ねる。側転をする。

身体能力の高いアスリートや役者などによる、親子三世代で笑い、感動できる「ボディスラップ」の公演が今月末から始まると言うことを聞きつけ、練習風景を取材してきた。

内容はかなりハードだ。例えば女性5人が並んで行なう演目の一部はこんな具合。

4拍で前転。次の4拍で逆方向に前転。間髪入れず、次の4拍で側転し、次の4拍で逆方向に側転。おわかりいただけるだろうか。前転2回、側転2回の間に、一瞬の休みもない。しかも、これを単体で行なうわけではない。激しい動きが前後にある。

できが悪ければ、やり直しの激が飛ぶ。身体能力が高い人たちばかりと言えど、生半可ではない内容だ。中村氏からOKが出ると、荒い息づかいをしながらレッスン場の端に戻る。しかし、息が少し整うと、即座に自主練を始める人がほとんどだ。

笑いもある。例えばボクシングを模した演目。

レフリーが急にゴリラに変わったり、セコンドがボクサーを痛めつけたり。それが、実際に拳が身体に当たっているわけではないのに、後ろに吹っ飛んだり顔を背けたりするタイミング芸と組み合わせて行なわれる。そのギャップに思わず笑ってしまう。しかし、中村氏は言う。
「同じシチュエーションで、毎回、同じことをやるんじゃない! 稽古場では、毎回異なった発想で動いてみろ! それくらい頭を使え!」
“笑い”についても真剣なのだ。

何か、清々しかった。こんなにひたむきに一つのことに打ち込む人がいる。ハードな内容なのに美しい。手や足で作り出す音が心地いい。そして、チャップリンのようにわかりやすく上品な笑いがある。

何人かのメンバーにお話を聞いた。

BチームのTERUさんは、マッスルミュージカルにも初期から参加した肉体派のイケメンだ。「毎日、おもしろおかしいことをマジにやっていきます」と語る。Bチームの見所はリズム感と若々しさだそうだ。手拍子の音の粒がそろうように車の中でも練習しているという。Aチームの羽賀佳代さんは、そんなTERUさんを「リズムが正確でBチームの大黒柱。ドシッと構えて揺るがない」と評する。


Aチームの羽賀佳代さんも、マッスルミュージカルに初期から参加していたメンバーで、キュートな中に芯の強さを感じる女性だ。元々ミュージカル女優志望で、最初は側転もできなかった。しかし、練習の甲斐あって、今は30回もできるようになったという。Aチームは個性派ぞろいで芝居心があるところが見所だと語る。BチームのTERUさんは羽賀さんを「個性派ぞろいでキャラの濃いメンバーをまとめている」と一目を置く。

そんなしっかり者のメンバーがいる一方、おもしろキャラもいる。ゴリラの真似が得意で常に研究しているという錦織聡さんや、リアル・ケンシロウとも言えそうなKevinさんなど。会いにいくのが楽しみになりそうだ。

中村龍史さんは言う。
エンターテイメントは、『人を元気にするもの』。ぼくはそれをずっとやってきた。役者が一生懸命な姿を見せ、おもしろいことを一生懸命にやる。そういった姿を見せることで子どもたちが向上心を持つこともできる。ボディスラップは、お父さんと子どもが一緒に笑い、感動でき、観客が参加できるエンターテイメントなんです。」

練習からも、そういった中村さんの想いはバンバン伝わってくる。親子で感動して笑って清々しい気持ちになりたい方は、11月30日から12月13日まで行なわれるボディスラップを見に行ってみてはいかがだろうか。

【公演概要】
2012年11月30日(金)〜12月13日(木)
会場:東京タワー フットタウン1F A1ホール
料金:2,980円(税込) 前売り・当日共通
詳しい情報は、http://worsal.com/stage/をご覧ください。

(取材、文=FelixSayaka
取材協力:(株)ワーサル(http://worsal.com/)、中村JAPAN(http://nakamura-japan.net

▼男性が4人で行なう演目の一部。手とひざを床につけた状態から、二人が飛び上がり、二人が転がって位置移動を行なう。飛び上がったときの身体の高さに驚く。一歩間違えば大けがになる。ハラハラする。

▼体を楽器のように使って音を奏でる。リズムが楽しい。