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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、ウェス・アンダーソン監督の新作『ムーンライズ・キングダム』です。2月24日(現地時間)に発表される第85回アカデミー賞では、脚本賞候補になっている作品です。アンダーソン監督の作品は、色彩、美術、衣装などは誰が見ても美しいけれど、キャラクターが独特です。ベタな笑いに走らず、わかりやすい感動はないけれど、今回、子供の初恋逃避行を描いた『ムーンライズ・キングダム』は、心の中にペパーミントの風が吹くような爽やかさに満ちた、愛すべき“小さな恋の物語”に仕上がっております。

舞台は1965年、厳格な父(ビル・マーレイ)と落ち着きのない母(フランシス・マクドーマンド)に育てられた12歳のスージー(カーラ・ヘイワード)とボーイスカウトのサム(ジャレッド・ギルマン)は、教会のお芝居で出逢い、恋に落ちます。文通を始めた二人は、ずっと駆け落ちの計画を立てており、ついにそれを実行! 家族は慌ててスージーを探し、ボーイスカウトの隊長(エドワード・ノートン)と仲間たちもサムを捜索します。二人は“ムーンライズ・キングダム”と名付けた美しい入り江にいました。無理やり二人を引き裂く大人たち。スージーは家に帰りましたが、里子に出されていたサムは、里子の両親に受け取りを拒否されてしまいます。そんな彼を孤独なシャープ警部(ブルース・ウイリス)が預かることになり……。

スージーもサムも、家族や自分の置かれている現状に不満をいただいており、笑顔がなく、少々変わり者で大人をてこずらせる子供。そんな二人が恋をした。「君ならわかるよね!」という仲間を見つけた喜びと「好き」という気持ちが止められず、恋の逃避行を実行させるのです。二人の姿は、往年の初恋映画の傑作『小さな恋のメロディ』みたいで、心ときめきます。サムの生い立ちは不幸だけれど、サムは涙ながらに同情をひくようなことをしないところが余計にキュン。諦めに近い感情を持った大人びた子供なのです。

そんな彼に父性愛を持って接するシャープ警部。この警部を演じるブルース・ウィリスがなかなかいいのです。「え、この若干、しょぼくれた感じのオッサンがブルース・ウィリス?」ってくらい意外性があって。

『LOOPER/ルーパー』といい『ムーンライズ・キングダム』といい、最近のブルース・ウィリスいい仕事しています。とはいえ、味わい深い映画や新感覚の映画だけに出演しているわけじゃなく、『ダイ・ハード/ラスト・デイ』もありますから!意外と器用な俳優だったんですねブルース・ウィリスって。

そして、この映画最大のポイントは色彩の美しさと美術です。ウェス・アンダーソン監督は「ノーマン・ロックウェルの世界を意識したんだ」と言っています。アンダーソン監督はかなり几帳面な人だそうで、プロデューサーのひとり、ジェレミー・ドーソン曰く「ウェスは監督として脚本家として、キャスティングから衣装まで、すべてに口を出す。なぜならそれが彼の作り上げる世界に関係しているからね」と。各担当者にお任せにせず、すべてを自分色に染め上げるのが、ウェス・アンダーソン監督のやり方。だから、彼の映画はいつもアンダーソンならではの世界観に統一されています。

作品ごとにカラーが変わる監督もいるけれど、彼に限ってはそんなことはなく、熱狂的なファンがいるのも、完璧主義のアンダーソン・ワールドに心奪われるから。彼の映画はエンターテインメントでもありますが、ひとつの芸術作品でもあるのですね。
(映画ライター=斎藤香)

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『ムーンライズ・キングダム』
2013年2月8日公開
監督:ウェス・アンダーソン
出演:ブルース・ウィリス、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントン、ジェイソン・シュワルツマン、ボブ・バラバン、
ジャレッド・ギルマン、カーラ・ヘイワード
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