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昔から、記者はよく「イイ人そうだね」と言われます。その理由はよく分からないのですが、街を歩いているとよく道案内を頼まれるし、ぜんぜん知らないおばあさんに話しかけられることもままあります。きっと「イイ人そう」に見えるのだと思います。

そんな「イイ人そう」な記者ですが、だまされそうになったことはこれまで一度しかありません。もしかすると気付いていないだけという可能性もありますが、それはさておき、記者はそのハプニングによって、ひどく心を傷つけられたのです。

数年前、まだ学生だった記者がある飲食店でアルバイトをしていたころのこと。中国から留学生として日本にやってきた男性が、新しくアルバイトとして働くことになりました。同い年ということもあり、アルバイト先ではそれなりに親しくしていましたが、プライベートで遊ぼうという話にはなりませんでした。仮に、その中国人男性をA君とします。

ただのアルバイト仲間という関係が1年ほど続いたある日、A君にまつわる妙なウワサを耳にしました。「父親が事業に失敗して、学費を払えないらしい」というのです。それはたいへんだなぁ~とは思いましたが、記者が何かをしてあげられるわけではないので、聞き流していました。

そんな折、なぜかA君が記者に急接近してきたのです。記者はお酒が好きなので、よくアルバイト帰りにだいたいいつも同じメンバーで居酒屋などに繰り出していたのですが、そこにA君が加わることが多くなりました。そして、なぜかA君はとても記者に優しく接してきたのです。

記者が運動オンチだという話をすると、「今度一緒にボーリングに行こう」ということになりました。A君は記者にボーリングのコツを教えてくれたり、飲み物を買ってくれたりと、紳士的に接してくれました。それからもメールとか、電話とかでやりとりをして、とにかくすごくいい感じ。これはもう、いつ付き合うという話になってもおかしくないなと思っていました。

そんなある日、記者はほかのアルバイト仲間に「A君といい感じなんだ」という話をしました。そこで、衝撃の事実を耳にしたのです。「A君、最近、学校に行っていないんだって。ビザもきれそうだし、日本人と結婚したいみたいだよ」。

ほかのアルバイト仲間はこう言います。「オレはA君に『中国でいい商売があるからどう?』と誘われた。純金を売買するらしくて、もうかるって言うんだけど」。

彼らの話を要約すると、A君はお金に困っていて学校に通うことが困難で、このままだと留学ビザの効力が失われてしまうかもしれない。だから、日本人女性と結婚して、手っ取り早く日本国籍を取得したいというのです。

その話を聞いた記者は、困惑してしまいました。A君に恋しているという状態ではなかったものの、これから恋が始まるかもしれないという状態だったのです。A君にとっては、日本人の女性なら誰でもよかったということなのかと、傷ついてしまったのです。

それから、記者はA君を避けるようにしました。いつの間にか、A君はアルバイトをしていた飲食店から姿を消しました。直接、真偽を確かめてみるべきだったのかもしれませんが、今となっては時すでに遅し。A君がどこで、何をしているのか、知る術もありません。

(写真・文=ふろりだまなこ)