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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは英国映画『パレードへようこそ』です。1984年サッチャー政権下で炭鉱閉鎖の政策に立ち向かっていった炭鉱の人々とゲイ&レズビアンの仲間たちの絆を描いた人間ドラマ。ユーモアを散りばめつつ、人と人とが繋がりあい、手を組んで立ち上がったときに湧き起こるパワーを描いた作品です。

【物語】

炭鉱労働者のストライキをテレビで知ったゲイのマーク(ベン・シュネッツァー)は、彼等が一致団結して立ち上がる姿に感銘を受けます。これはマイノリティである自分たちと一緒だと。マークは彼等の役に立ちたいと思い、ゲイ&レズの仲間を集めて募金を開始。LGSM(炭鉱夫支援レズ&ゲイの会)を立ち上げます。

しかし、炭鉱労働組合は「レズ&ゲイ」と聞いただけで拒否反応。そんな中、ひとつの炭鉱に直接連絡をしたところ受け入れてくれたので、会いに行くことに。それが騒動の始まりだったのです……。

【クールな都会人と親しみやすい田舎の世界】

1984年に起こった炭鉱閉山による炭鉱組合のストライキの中、起こった実話を映画化したのが『パレードへようこそ』です。表向きは経済政策で生活を奪われそうな炭鉱の人々とそれらを切り捨てようとする政府の闘いですが、なんとなく自立して生きている(つもり)の今の都会の薄い人間関係と田舎の密な人付き合いの対立の構図にも似ています。

困ったときはお互い様という世話焼きのおばちゃんや他人の子供でも叱ってくれる近所のおじちゃん……そんな人たちを思い出させる炭鉱の人々。そんないい人たちがゲイ&レズビアンの寄付を突っぱねたとき「意外と冷たい!」と一瞬思いましたが、ご近所さんと和気あいあいだった中に、いきなりゲイ&レズビアンの人たちが都会からやってきたら「ギョ!」っとするのも仕方ないかも。彼等は保守的だったから。でもゲイ&レズの人たちは都会に住みながらも、心は炭鉱の町の人たちと変わらなかったのです。

【小さな親切から広がる勇気】

普通なら拒否されたら「もういいや」と諦めてしまうところですが、LGSMの人たちは決して諦めません。炭鉱の町に乗り込んで差別的なことを言われても、彼等は本当に打たれ強い。それに炭鉱の人々の中に彼等に感謝する人もいて、そこから絆が広まっていくのです。

炭鉱の中には何かしなければと言いつつ、立ち上がれない人もいる。でもLGSMの人が来てくれたことで背中を押される人もいたのです。小さな親切が理解を得て、大きな活動に広がっていく様子は本当に胸がわくわくします。

【脚本に共鳴した役者たち】

LGSMの理解者のひとりクリフを演じたビル・ナイはこう語っています。

「このような実話があったのは知らなかったよ。でも素晴らしい脚本だ。あの頃はゲイが公衆の面前でキスをするだけで7年間刑務所行きになるようなこともあった。炭鉱労働者のストライキとゲイ文化史が見事に重なり合った物語は美しく、私の芸歴の中でもトップクラスの仕事だったよ」

そしてこの映画で、マークたちLGSMの人にとって炭鉱のおっかさんのような存在感を示したヘフィーナ役のイメルダ・スタウントンは衝撃の事実を!

「実在のヘフィーナは撮影初日に亡くなったの。私は彼女から“私の出番は終わったから、あとはよろしく頼むわね”と言われた気分だったわ。ユーモアでなら物事を真剣に受け止めることができる!というのがこの映画の手法よ」

ヘフィーナみたいなおばちゃんが側にいたら心強いと思いましたね。後半に登場する炭鉱女子たちのエロトークなんて爆笑! 強くて楽しくて最強のおばちゃんパワーがさく裂。彼女は本当に魅力的なキャラでした。

そう、この映画の魅力はユーモラスで真面目なところです。真面目一辺倒だと堅苦しく感じるけど、そこにユーモアを挟むことでフっと肩の力が抜ける。この緩急のつけ方がいいんですよねえ。英国の炭鉱組合ストライキが背景の映画は『リトル・ダンサー』『ブラス!』という傑作があるけど、またひとつその仲間が増えました。

小さな勇気が絆を生んで、大きな活動へと繋がっていく『パレードへようこそ』。人生に大切なのは結果よりプロセスということを教えてくれますよ。

執筆=斎藤 香(C)Pouch
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『パレードへようこそ』
2015年4月4日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
監督:マシュー・ウォーチャス
出演:ビル・ナイ、イメルダ・スタウントン、ベン・シュネッツァー、ドミニク・ウェスト、パディ・コンシダインほか
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