[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、2014年度アカデミー賞脚本賞候補ほか、全米の数々の映画賞を席巻した秀作『ナイトクローラー』(2015年8月22日公開)です。ナイトクローラーとは、夜の街で事件や事故現場の生々しく刺激的な映像を撮影し、テレビ局に売り込むパパラッチのこと。
モラルを破って、さらに過激でセンセーショナルな映像へと走っていくナイトクローラーである主人公を描いた本作では、主演・ジェイク・ギレンホールの怪演にも注目が集まっています。報道の闇にスポットをあてつつ、それは同時に、人間の闇でもあると描くショッキングな作品です。
【物語】
ロサンゼルスでコソ泥のようなことをしながら、孤独に生きる男・ルイス(ジェイク・ギレンホール)は、ある日、事故現場の映像をテレビ局に売る「ナイトクローラー」と呼ばれる報道カメラマンの仕事現場に遭遇します。その映像がテレビ局に高値で売れると知った彼は、盗んだ自転車と交換に、ビデオカメラと無線傍受器を手に入れて、仕事を開始。警察の無線を盗み聞いて、事件現場に直行するように。
ある日スクープを手に入れた彼は、それが売れるや、ますます仕事にのめり込み、過激映像を撮るために行動がエスカレートしていくのです。
【嫌悪感がハンパない主人公の誕生】
ファーストシーンから、薄汚いコソ泥であり、暴力ふるうことを何とも思わない主人公、ルイスの嫌な一面が登場します。そして、暗闇から現れるジェイク・ギレンホールの顔を見て、誰もがビックリするでしょう。やせこけた姿にも驚きますが、目に狂気が宿っているからです。当初からかなりインパクトがあるのですが、その後、ナイトクローラーになっていく姿は、そのプロセスがもう恐怖!
コソ泥という軽犯罪で金を稼いでいた男が、どんどん怪物になっていくのです。もともとモラルなんて持ち合わせていないから、人の家に勝手に入ることも、死んだ人にカメラをグイグイ向けることも、何とも思わないどころか「チャンス」とさえ思うのです。「金のため」だけではなく、快楽殺人者の異常な精神に近づいているような……。
映画を見ている間に主人公に抱く嫌悪感はハンパありません。「なんでこの男を誰も止められないの?」とさえ思うのですが、過激映像が視聴率に貢献しているだけに、テレビ局の人間も「彼はヤバイ」と思いつつも、切れない。おそらく、この男が大失態を犯すまで仕事させるでしょう。
そんなテレビ局にも問題大有りですが、その刺激的な映像を求めているのは視聴者。ゆえに、こういう男を生み出した責任の一端は視聴者にもあるのです。すべての人間の闇に潜む欲が生み出した怪物が、ルイスなのですね。
【現代社会の経済格差から生まれた映画】
監督であるダン・ギルロイは、「ナイトクローラーの存在は映画的に面白いと思い、また経済格差がますます広がる現代社会に生きる若者たちが直面している問題についても描ける」と考えたそうです。最低賃金どころか、研修と称して無償で働かされる若者たちが、頑張ったって何も得られないと絶望したら、どうなるか。『ナイトクローラー』のルイスになってしまうこともあるのです。
学もない、金もない、人脈も何もない人間が、認めてもらえる唯一の方法を見つけ出した! それが悪への道だったとしても、絶望している男はもう止められない……これは恐ろしいことです。これはアメリカだけの問題ではなく、日本でだって別な形で現れるかもしれないのですよ、ルイスが!
【ロサンゼルスを美しく映し出す映像美】
とにかく嫌なヤツが主人公なわけですが、この映画を彩る映像は本当に素晴らしいです。ロサンゼルスの夜、真っ暗な中に浮かび上がる建物の灯り、街灯、ロマンチックにさえ見えてしまいます。そんな美しい絵葉書のような夜が、残酷な事故現場や暴走するルイスの行動の合間に差し込まれるのですよ。その落差も魅力的で、あまりに洗練された美にハッとさせられます。
ダン・ギルロイ監督はこれまでも優秀な脚本家として活躍していますが、これが監督デビュー作とは……もうビックリの手腕! 今後、ダン・ギルロイ監督作は目が離せません!
夏の終わりに、ホラーよりも怖い社会の闇を描く映画『ナイトクローラー』。監督、脚本、役者、すべてが一流の映画をぜひ堪能して、背筋ゾクッとしてください。
執筆=斎藤 香(C)Pouch
『ナイトクローラー』
2015年8月22日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
監督:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ギレンホール、レネ・ルッソ、リズ・アーメッド、ビル・パクストンほか
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▼映画『ナイトクローラー』予告編
▼映画『ナイトクローラー』冒頭映像
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