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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは名匠・山田洋次監督の新作『母と暮せば』(2015年12月12日公開)。あの国民的女優の吉永小百合と、国民的アイドルグループの嵐・二宮和也が母と息子役で共演したことでも話題の作品です。

この映画のアイデアの源は、作家の井上ひさしさん。長崎を舞台にした物語を書きたいと語っていた井上さんが用意していたタイトルが「母と暮せば」だったのです。その話に衝撃を受けて、山田監督はこの映画を作ったのだそう。

一足先に試写で見させていただいた記者、もう泣いた泣いた! というわけで、この映画の魅力を綴って見たいと思います。

【物語】

1948年、長崎。夫と長男を戦争で、次男の浩二(二宮和也)を原爆で亡くした伸子(吉永小百合)は、浩二の恋人だった町子(黒木華)に「浩二のことは諦める」と語ります。

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しかし、諦めた途端、浩二の亡霊が現れ「母さんが諦めないから、なかなか出てこられなかったよ」と伸子に語りかけます。彼はたびたび伸子に会いに来ては思い出話をしますが、恋人の町子の前には現れません。彼女に会うのが辛いという浩二。伸子は、町子は他の人を見つけて幸福になった方がいいと言いますが、浩二は、諦め切れず……。

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【戦争が普通の人々を苦しめる】

誰もがイヤだと思う戦争。悲しく苦しく野蛮な行為なのに、今でも闘いは止まず、その影が日本にもひたひたと近づいている感があります。山田洋次監督は、だからこそ、この映画を撮ったのかもしれません。

この映画の伸子も浩二も町子も、みんな普通に暮らしてきた人たちです。人を傷つけることなく、自身の未来を思い描いて、毎日を大切に生きてきたのに、それが奪われてしまう。浩二が原爆で一瞬で消えてしまうシーンがその象徴です。背筋がゾっとする瞬間をこの映画は切り取っているのです。実にわかりやすくストレートだからこそ、胸に響くのでしょう。

【愛し合う二人も戦争に引き裂かれる】

浩二には町子という恋人がいます。1940年代の恋だから、いまどきの恋に比べれば幼いしベタかもしれない。でも二人は本当に愛し合っていて、お互い思いあっているシーンが多く登場し、本当に胸アツになります。

浩二は死んでも町子が諦め切れない、町子は亡くなった浩二を一生思い続けて生きようと決めています。でも、未来のある町子には他の人と一緒になる選択肢はあるはず。浩二はどうする? 

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戦争さえなければ、かわいい二人は素敵な夫婦になれたはずなのに……。それを思うと、こんなに愛し合う二人を引き裂いてしまった戦争に怒り、二人の気持ちを思うと、泣けて泣けて仕方ありません! かなり直球の恋愛エピソードですが、二宮和也、黒木華がお似合いで、かつ、巧いので切なさも倍増です。

【ユーモアが悲しみを際立たせる】

反戦を描きながらも、母と息子の亡霊とのやりとりはユーモアもあり、浩二のセリフなどちょっとブラックな印象も。でも実はすごく辛かったり、苦しかったりする気持ちがわかるゆえに、笑いが余計に悲しみを際立たせています。ニヤっとしつつも辛い……みたいな。

吉永小百合は美しく、二宮和也は、浩二の甘えんぼな次男キャラにピッタリで、亡霊を微妙な存在感を持って演じており、やっぱりいい役者だと実感。黒木華は本当にかわいい。

吉永小百合目当ての年配の観客もいれば、嵐のニノファン、音楽を手がけた坂本龍一ファン、そして山田洋次監督の映画が好きな映画ファンなど、いろいろな世代の人が見られる映画。ニノの神演技をぜひハンカチ握りしめて映画館でご覧ください。

執筆=斎藤 香(c)Pouch

『母と暮せば』
(2015年12月12日より、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー)
監督:山田洋次
出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一ほか
(C)2015「母と暮せば」製作委員会