【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、映画『アイネクライネナハトムジーク』(2019年9月20日公開)です。伊坂幸太郎の同名小説の映画化で、3度目の共演となる三浦春馬さんと多部未華子さんが恋人役で登場します。他、仙台を舞台に様々な人々の恋愛エピソードが重なり合うように描かれていて、すごくいいんですよ~。タイトルの意味はドイツ語で「小さな夜の音楽」。では物語から。
【物語】
街頭アンケートがきっかけで出会った佐藤(三浦春馬)と紗季(多部未華子)は、付き合って10年。佐藤は紗季との結婚を決意するがなかなか言い出せない。佐藤の大学時代からの友人の織田(矢本悠馬)の娘・美緒(恒松祐里)は、クラスメイトの和人(萩原利久)との間で、お互い意識しながらも距離が縮まらずモヤモヤ……。そんなとき、かつて日本人初のヘビー級チャンピオンだったボクサーのウィンストン小野(成田瑛基)のタイトルマッチが行われることに……。
【仙台の街でキラキラ輝く心温まる人間関係】
主要登場人物が多いのですが、それぞれのエピソードに共通する人物がいるので全員が間接的につながって、ひとつの世界を作り上げています。その中心で象徴となるのは、ボクサーのウィンストン小野。彼は登場人物に勇気を与える存在です。プロポーズがうまくできないとか、「好き」と告白できないとか、いじめられっ子がいじめっ子たちから逃げられないとか、そんな気持ちもウィンストン小野の存在が払拭してくれます。「不可能」と言われていた日本人のヘビー級チャンピオン。それを成し遂げた彼を見ていると「自分たちだってやればできる!」と思えてくるからです。
【10年後でも愛し合えているか?】
登場人物の10年越しのエピソードの中でも特に印象的なのは、佐藤と紗季の物語です。運命のような出会いから、お付き合いして10年「そろそろ結婚かな」と、佐藤は素敵なレストランでのディナーのときに言いそびれたプロポーズを帰り道にサラリと告げますが、紗季は結婚を躊躇します。彼女は「10年経ったから結婚でもするか」的な考えがイヤだったのかも。
でもその後、佐藤のとった思い切った行動が鍵になり、2人の関係に変化が訪れます。やはり人の心を動かすのは理屈じゃなくて、ほとばしる感情! 真実はそんな感情の中に宿っているのです。付き合いが長すぎて愛が見えなくなっていた二人ですが、佐藤は紗季と離れて彼女への想いを再確認。「10年付き合ったから」とか「周りに人がいるときにはプロポーズなんてできない」とかゴチャゴチャした言い訳は必要ないんですね。思いはストレートに伝えなくちゃと改めて思いました。
【伊坂×今泉力哉×斉藤和義が組んだミラクルな映画】
本作の演出は『愛がなんだ』の今泉力哉監督。原作者の伊坂幸太郎さんが今泉監督を希望したそうで、相性はバッチリでしたね! 佐藤と紗季の恋愛も含め、この映画に登場する人物の物語は、すごく身近で共感度が高く、映画を観ていると、自分が彼らのご近所さんで、その悲喜こもごものエピソードの立ち会い人になっているような気持ちになります。この身近さは今泉監督の演出だからこそかも。
そして主題歌「小さな夜」を手掛けた斉藤和義さんは、伊坂さんに作詞を依頼したことがきっかけで交流が始まり、お互い小説と曲を贈り合って、それが原作である連作小説集「アイネクライネハナトウジーク」へと発展していったそう。こうして伊坂幸太郎×今泉力哉×斉藤和義というミラクルな作品が生まれました! このトリオでまた映画を作ってほしいなあ。
本作を、結婚前の恋人同士で観たら、お互いに何か思わずにいられないかもしれません。女子同士で見たら、登場人物たちのさまざまな想いにあーでもないこーでもないと女子トークが止まらなくなりそう。自分の人間関係を見つめなおしたり、思い出にひたったり、いろいろな想いが心の中で生まれる作品ですので、ぜひぜひ劇場でご覧ください!
執筆:斎藤 香 (c)Pouch
『アイネクライネナハトムジーク』
(2019年9月20日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:今泉力哉
原作:伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」(幻冬舎文庫)
主題歌:斉藤和義「小さな夜」(スピードスターレコーズ)
出演:三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、貫地谷しほり、原田泰造
Photo:(c)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
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