【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回はチェコのドキュメンタリー映画『SNS-少女たちの 10 日間-』(2021年4月23日より公開)です。

チェコでは少女たちに対してSNSで性的虐待をする男が後を絶たないという現実があり、この事実を世間に知らせるために制作されたドキュメンタリーです。

試写で見せていただきましたが、少女たちにSNSで接近してくる男たちが卑劣さに驚くばかりです。

こういう悪い大人たちが世の中にたくさんいて、子供たちを狙っているという現実に戦慄しました。ではドキュメンタリーのストーリーからいきます。

【物語】

バーラ・ハルポヴァーとヴィート・クルサークの両監督と映画制作スタッフは、童顔で12歳くらいに見える18歳以上の女優をオーディションで集めます。

その中から3名が選ばれ、巨大スタジオに作られた3つの子供部屋に、それぞれが自宅から子供時代に使っていた数々の私物を運び込み、カウンセラーなどもスタジオに待機させたうえで12歳の少女になりきる準備をします。

そして、スタッフが「12 歳の少女・ティンカ」という架空の少女のプロフィールを作成してSNSにアップすると、10 日間で 2458 名もの成人男性たちが少女たちにコンタクトを取ってきたのです。

【多くの女子たちがSNSで性のターゲットになっている】

この映画は冒頭、ドキュメンタリーを制作するため、12歳に見える童顔の女優のオーディションを映し出します。

スタッフは彼女たちに成人の男たちから性的虐待を受けたことがあるかと聞くのですが、多くの女性たちが「ある」と答えるのです。

性に目覚める思春期の頃、イタズラ心で始めたSNSで被害にあったという彼女たち。裸の写真を送ってしまい、とんでもないことを経験した人も。

でもこれはチェコに限らず、もちろん日本や世界中で起こっていること。自身の経験を赤裸々に話す彼女たちの話はショックですが、映画はもっとショッキングな生々しい児童への虐待の真実を暴いていくのです。

【とんでもない画像を送りつけてくる男たち】

少女のアカウントに友達申請をしてきたのは、ほとんど成人男性。

女優たちが順番に男とチャットで会話したり、リモートでやりとりするのですが、自己紹介もそこそこに全裸になる男がいたり、PCのカメラを動かして下半身を見せつけてきたり、「服を脱いで裸になって」としつこく要求してきたりといった行為の連続!

女優たちの中には精神的にショックを受けて泣いてしまう人もいました……。でも、これがSNSでの性的虐待の現実なんですね。想像以上でショックでした。

ちなみに男たちは一般人なので特定されないように顔にモザイクをかけられていますが、目だけはモザイクで隠していないんです。

顔はボヤけているのに目だけがギラギラとこちらを観ていて、それがまた気持ち悪くて、恐怖に拍車をかけていました。

【対面しないコミュニケーションでも安心はできない】

日本でもSNSを通して知り合った人との間でトラブルが生じて事件に発展するという報道がありますが、これらは特殊なことではなく、世界各地で日常起こっていることなのでしょう。

そして、親にも言えずに悩んでいる子供たちが多く存在するのです。

「実際に会うわけじゃないし」と軽い気持ちで、相手の話に乗っかると、こういう気持ち悪い人種にずっと追いかけられることになり、写真など送ってしまったら拡散されたり、恐喝されたり……。

SNSは使い方によってはとても便利ですが、悪用する人間にとっては、性的虐待のハードルが低くなったと認識しているような気がします。

男たちは、実際に女の子に声をかけて振り向かせなくてもいいんですから。だから、おじさんがなかなか出会うことができない、12歳の少女のアカウントに多くの男が群がるのです。

【観るのは勇気がいるけど、現実を知るのは大切なこと】

この映画は、子供を持つ親だけでなく、少女たちや男の子にも観てほしいです。特に男性が見ると、女性とは違った感情が生まれるのではないでしょうか。

少女たちに群がる男たちは、とても情けないというか、滑稽です。これを見た男性にぜひ聞きたい。少女に向かって下半身丸出しの男を見て「どう思います?」って。

ひとつ意外だったのは、12歳の少女とコンタクトを取ってきた男たちは、全員が小児性愛者だろうと思っていましたが、違ったということ。

彼らが性のはけ口を少女に求めたのは、大人の女性だと支配するのに手こずるから。好奇心でSNSを開設して自分とコンタクトしてくれる、何も知らない少女だからターゲットにしたのではないかと思うのです。

ちなみに本作は制作するにあたり、精神科医、性科学者、弁護士や警備員など専門家の万全の体制で臨み、女優たちの心のケアもしています。

彼女たちはよく頑張った! スタッフにしっかり守られながらのお仕事だったとはいえ、相手は俳優じゃなく本物の性犯罪者ですから……。

刺激が強すぎる作品ですが、SNSでの他者との繋がりを今一度見直すきっかけになるドキュメンタリーで、学びは多い映画だと思います。

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

SNS-少女たちの 10 日間-
(2021年4月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー)
監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク
原案: ヴィート・クルサーク
出演:テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ピタルトヴァー、サビナ・ドロウハー

※緊急事態宣言中は、公開が中止になる場合もあります。詳細は劇場の公式HPでご確認ください。
http://www.hark3.com/sns-10days/

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