【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。

今回ピックアップするのは、岡崎京子の同名漫画を映画化した『リバーズ・エッジ』です。映画の主題歌は、岡崎京子の旧友・小沢健二が書き下ろした新作「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」。主演の二階堂ふみと、吉沢亮がレコーディングに参加しています。

岡崎作品の映画といえば、沢尻エリカ主演作『ヘルタースケルター』がありますが、私には『ヘルタースケルター』よりも本作の方が胸にガツンと響きました。それは90年代に生きるはみだし者の高校生が、実にリアルに活写されていたからです。原作の漫画は未読ですが、 “岡崎京子が描く世界に触れた” という実感がありました。

では物語から紹介していきましょう。(※以下、ネタバレを含みます)

【物語】

若草ハルナ(二階堂ふみ)は、彼氏の観音崎(上杉柊平)がボコボコにいじめていた山田一郎(吉沢亮)を助けたことをきっかけに、山田の秘密の場所である河原に連れて行かれます。

そこにあったのは放置された死体。「これを見ると勇気が沸く」という山田。

彼は、この秘密を共有しているモデルの吉川こずえ(SUMIRE)をハルナに紹介します。彼女は、食べては吐くを繰り返していました。

その一方、観音崎は、ハルナの友達の小山ルミ(土居志央梨)とも体の関係があり、同級生の田島カンナ(森川葵)は、山田を過剰なほど愛していました。そんな彼らが向かう未来とは……。

【見えない何かを求めて暴走する高校生たち】

高校生の女の子が主人公の映画といえば、キュートな少女漫画原作の恋物語が多く話題を集めますが、そのタイプの映画とは完全に一線を画す本作。同じ高校生が主人公でも、こうも違うものなのかとビックリです。

『リバーズ・エッジ』に登場する高校生は、喫煙するし、体の関係もリアルに描かれます。

男子も女子も、大人と子供の境界線に立ち、繊細ゆえに与えられる日常をすんなり受け入れることができずにいます。情熱を持て余し、それぞれが自分のやり方で暴れているのです。

【観音崎&ルミの欲望の赴くままの青春】

ハルナの彼、観音崎は家族と折り合いが悪くて居場所がなく、そのイライラを暴力や体の関係で解消しています。

そしてハルナの友人・ルミには引きこもりの姉がいて不仲。親も放任で、彼女はいろんな男に体を売っておこずかいを得ています。

観音崎とルミは目先の欲望の赴くままに生きて、自分を大切にしないのですが、そうすることでしか生きる実感が得られないのです。

【死体に生の実感をもらう青春】

山田は死体を見たら勇気が出るという異常性があり、特に後半、新しい死体を発見したときの山田のうれしそうな顔は狂気と紙一重です。そして山田の友人で、モデルをしている吉川こずえは、食べて吐くを繰り返すことで生を実感しているのかもしれません。

ふたりとも病んでいる……でも彼らも、「生きている」実感を得る方法が他に見つからないのでしょう。

【やさしい諦観者、ハルナの青春】

そんな同級生たちの孤独や暴走に振り回されたり、受け止めたりしながらも、常に冷静なハルナ。やさしいけどミステリアスで、いちばん大人な諦観者に見える一方で、大人の目(私)から見ると何を考えているのかと思ったりもします。

ハルナはみんなの鏡のような存在? もしかしたら彼女は岡崎京子自身なのかもしれないとも思いました。

【キラキラしていない青春を描いた群像劇】

キュートな少女漫画の映画化作品は、憧れの世界を見せてくれます。でも、現実世界は『リバーズ・エッジ』的な感情がとぐろを巻いているのではないかと思います。

現に、SNSで知り合った見知らぬ人に会いに行きトラブルになったという報道を見ると、身内にも友人にも明かせない黒い感情を抱えているのだろうと。

彼らのように、言葉にできない複雑な感情を抱えている高校生は多く、キラキラしたくてもキラキラできない青春の裏側は確実に存在します。それを描いているのが『リバーズ・エッジ』なのです。

【主演女優が映画化を相談した作品】

ちなみに役者たちは、バチっと役にはまりましたね。この映画は二階堂ふみさんが、行定勲監督に映画化を相談したそうです。自ら映画化を希望しただけあって、受け身ながらインパクトを残すという難役・ハルナを絶妙に上手く演じていました。さすが!

また、美しさの中に狂気を秘めた山田役の吉沢亮くんと、ハルナの友人・ルミを体当たり演技で魅了した土居志央梨さんは強烈でした。特に土居さんは圧巻! また凄い女優が出て来たと嬉しい気持ちに。

もしかしたら見る人を選ぶ映画かもしれませんが、キラキラだけが青春じゃないと思っている人はゼヒ。けっこう刺さるかもしれませんよ。


執筆=斎藤 香 (C) Pouch

『リバーズ・エッジ』
(2018年2月16日より、TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショー)
監督:行定勲
出演:二階堂ふみ、吉沢亮、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨、森川葵ほか
(C)2018映画「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

▼映画『リバーズ・エッジ』予告編

▼映画『リバーズ・エッジ』主題歌入り予告編