【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップしたのは、人気監督フランソワ・オゾン監督の最新作『Summer of 85』(2021年8月20日公開)です。
美しい少年たちのひと夏の恋物語ではあるのですが、さすがオゾン監督、一筋縄ではいきません。
主人公の少年の回想で語られる物語はミステリアスな仕掛けもあり、最後まで目を離せない作品に! では物語から。
【物語】
1985年の夏、16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーヴル)は、ひとり海でヨットに揺られていると、嵐に遭遇し、大きな波を受けて転覆。
救ってくれたのは、18歳のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)。アレックスは親切なダヴィドに感謝しつつ、さりげなくアプローチしてくる彼に心惹かれていくのです。初めての恋に夢中になるアレックスですが、二人の関係は思いがけない方向へと転がっていき……。
【ラブラブだった二人の間に何があったのか!】
結論から言いますと、おもしろかったです! 美しくて淡いBL映画化と思ったら、そんな単純な映画ではありませんでした。
冒頭、アレックスとダヴィドの間で“何か”が起こり、ダヴィッドは亡くなり、アレックスは罪に問われている……といったエピソードが描かれます。二人の間に起こったことが、アレックスの回想で描かれていくという構成です。
その回想シーンは、とても美しい! 海辺の観光地で暮らすアレックスとダヴィッドが出会い、恋に落ちていく様をキラキラの青春として描いています。
うぶなアレックスが自由奔放なダヴィドに振り回されながらも、彼にニコニコとついていく姿がカワイイ! でも、ダヴィドには「この人を信じていいのだろうか」と思わせる怪しさがあるのです。
【美しきダヴィドの素顔】
ダヴィドは、アレックスとデート中、夜の街で泥酔している青年を見かけて彼を助け、とても親切に接します。
アレックスは「ただの酔っ払いに親切すぎる」と言いますが、ダヴィドはアレックスを助けたときと一緒だと答えます。そう言われると何も返せないアレックス……。でもアレックスは酔っ払い青年の美しい顔に気づいて、ダヴィドが助けた理由に気づくのです。
そして次第にダヴィドの素顔が見えてきます。初めて会ったときについた嘘、アレックスに出会うまで母親を困らせてきたこと、そしてアレックスの知人の英国人女性に近づいていったこと……。
ダヴィドのことが好きで好きで仕方がないアレックスの心は次第にザワザワし始めるのです。
【フランソワ・オゾン監督が17歳のときから温めていた作品】
本作はオゾン監督が17歳のときに夢中で読んだ小説「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ/エイダン・チェンバーズ・著/徳間書店)の映画化。
この小説に出会い「いつか長編映画を監督することになったら、第1作目はこの小説だと思った」と語っていたオゾン監督。第1作目ではありませんが、念願がかなった作品でもあるのです。
「10代に入って初めて感じるパッション、どうしても湧き上がる感情などを綴った、世代や時代を問わない愛の物語」
と語るオゾン監督。ダヴィッドとアレックスがお互いの激しい感情をぶつけあうシーン、言葉で相手を傷つけてしまったりもするけれど、どうに止められないあの感じは若いからこそ!
ちなみにこの小説のタイトル「おれの墓で踊れ」はダヴィドがアレックスに、自分が先に死んだら「俺の墓の上で踊ってくれ」といった言葉です。アレックスは「そんな変なことできないよ、嫌だ」というのですが……。
オゾン監督はキャスティングにも超こだわり、1999年生まれの新人俳優フェリックス・ルフェーヴルと1996年生まれの若手俳優バンジャマン・ヴォワザンを抜擢。オゾン監督の期待に応えた二人は、熱い初恋物語を体当たりで演じています。二人とも美男なので、本当に眼福ですよ!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
『Summer of 85』
(2021年8月20日より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー)
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー
© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
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