【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは清野菜名さん、松坂桃李さん主演映画『耳をすませば』(2022年10月14日公開)です。ジブリ制作の同名アニメーション映画『耳をすませば』(1995)が有名ですが、実写版では主人公の雫と聖司の10年後の関係を描いています。初日に劇場で鑑賞してきました。
では、物語から行ってみましょう!
【物語】
読書が大好きな月野雫(清野菜名さん)は、出版社で児童書の編集者として働きながら小説家を目指しています。そんな彼女が中学時代から思いを寄せている天沢聖司(松坂桃李さん)はイタリアでチェロ奏者として活動。
雫にとって聖司は夢を叶えた人。
彼に追いつきたいと思っても、小説家として芽が出ないばかりか、編集者としても大失敗。雫は夢を諦めるか否かと悩み、その答えを見つけるために、聖司に会いに行こうとイタリアへ向かうのです。
【松坂桃李の魅力が満載!】
アニメーション映画『耳をすませば』の雫と聖司の10年後という舞台設定は、原作やジブリアニメ版のファンにとっては、もしかしたら複雑に思うかもしれません。でも、私にとっては好奇心をくすぐられる設定。
松坂桃李さんと清野菜名さんが持つ清潔感がアニメーションの実写化にピタリとはまっていたと思うし、なにしろ2ショットは本当に可愛らしくて、「まさに雫と聖司の10年後だわ!」と感動しました。
特に松坂桃李さんは、あのルックスで雫を一途に思い続ける聖司を演じているので、もうドキドキですよ!
穏やかで優しくて温かみのある魅力が溢れていました。松坂さんは本当になんでもできる俳優だなと、芝居の振り幅の広さにも感動。
キャスティング、バッチリです!
ちなみに、聖司はアニメ版ではヴァイオリン職人を目指していたのに、実写版ではチェロ奏者になったことや、主題歌「カントリーロード」が「翼をください」に曲変更されていたりとありましたが、私は正直気にならなかったです。
逆に「翼をください」は、雫の心情にピタリとあっていて良かったと思いました。
【雫と聖司の恋愛には物足りなさも】
しかし、大人になったふたりの恋物語には物足りなさを感じてしまいました。
雫は親友の夕子(内田理央さん)に、遠距離恋愛の難しさについて相談していましたが、この10年間、雫と聖司は連絡を取り合っていたのか、お互いに励ましあっていたのか、そういう描写がないんですよね。
聖司からの手紙の束があったり、国際電話で彼の声を聞いて励まされたり、そういう場面があったら落ち込んだ雫がどうしても聖司に会いたくてイタリアへ飛ぶのもわかります。
ですが、離れていた10年間のふたりの関係性が見えないので、雫のイタリア行きが「急だなあ」と感じてしまいました。
【ヘルシーな純愛映画?】
雫と聖司を取り巻く人々もいい人ばかりで、よく言えば安心して見ていられます。
ですが、これはもう中学生の恋愛ではなく大人の男女の恋愛映画と考えると、遠距離とはいえ10年もお付き合いしている割には、どこかよそよそしく見えてしまって。
そのぎこちない感じが雫と聖司らしさなのでしょうか、私にはよくわかりませんでした……。
また映画の前半は、ジブリのアニメーションで描かれていたのと同じ雫(安原琉那さん)と聖司(中川翼さん)の中学時代のエピソードでほぼ占められていて「大人の話は?」と思ってしまって。
ふたりの関係性を見せるためかもしれませんが「10年後の物語」を映画のキャッチにしているのだから、大人の雫と聖司の物語をもっとガッツリ深くみせて欲しかったな……。
どちらかといえば、中学時代からの恋愛を実らせた夕子と杉村(山田裕貴さん)の関係の方がリアルな恋人同士に見えました。このふたりの10年間はくっついたり離れたりしてそうなのでスピンオフで見たい、と思いました。
私はちょっと辛口になってしまいましたが、ちまたでは「大感動!」と賛否両論分かれているみたい。ぜひ、皆さんの目でたしかめていただきたいです!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©︎柊あおい/集英社 ©︎2022「耳をすませば」製作委員会
『耳をすませば』(2022年10月14日より全国ロードショー)
原作:柊あおい「耳をすませば」(集英社文庫<コミック版>刊)
監督・脚本:平川雄一朗
出演:清野菜名 松坂桃李
山田裕貴 内田理央/安原琉那 中川翼 荒木飛羽 住友沙来
音尾琢真 松本まりか 中田圭祐 小林隆 森口瑤子/田中圭
近藤正臣
コメントをどうぞ