【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、横浜流星主演映画『ヴィレッジ』(2023年4月21日公開)です。本作を手がけたのは、『新聞記者』(2019年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した藤井道人監督です。
試写で鑑賞しましたが、横浜流星の力強い演技に圧倒される作品でした! それでは、物語から。
【物語】
山に囲まれた霞門村のゴミ処理場で働く優(横浜流星さん)は、鬱屈した日々を過ごしていました。過去に父が起こした事件のせいで村の人々からは冷たく扱われ、唯一の家族である母(西田尚美さん)はギャンブルにハマり、家は借金地獄です。
そんなある日、幼馴染の美咲(黒木華さん)が霞門村へ帰ってきました。彼女との再会で、優の人生は好転していくように見えたのですが……。
【人生のダークサイドで生きる主人公】
空が広く、美しい山々に囲まれた霞門村ですが、そこに住む村人たちは閉鎖的で、優の父が過去に起こした事件を許していません。優には事件の責任がないのに、彼の存在は村人たちから疎ましく、平然と陰口や悪口が飛び交います。
仕事先のゴミ処理場でもパワハラにあっていましたが、それでも彼は歯を食いしばって生きてきました……。
という感じで、本作は冒頭からハードな展開ですが、優のどん底人生がどう転がっていくのかと、彼が厳しい環境に置かれているからこそ興味がそそられます。
そんな優の人生に光をもたらすのが美咲。彼女は閉鎖的な村を嫌って出て行ったのですが、都会に疲れて帰ってきたのです。
【どん底人生から陽の当たる場所へ】
同じように人生に疲れている優と美咲……。
ですが、ふたりの違いは美咲が地元で人生をやり直そうと前向きであること。優ほどの負のしがらみがない彼女は、希望のない日々を送っている優の手を取り、どん底から引っ張り上げるのです。
美咲の計らいで、ゴミ処理場のツアーガイドを担当することになった優は、どんどん表情が明るくなっていきます。美咲とも恋人同士のような関係になり、公私ともに人生が上昇気流に!
「優がやっと陽の当たる場所に〜!」と見ているこちらもホッとするのですが、「きっとこのままでは終わらないな」という不穏な空気が漂っているところも本作の面白さです。
【怒涛の展開に緊張しっぱなし!】
美咲に思いを寄せていた村長の息子(一ノ瀬ワタルさん)が優の人生をぶち壊そうと動き出すと同時に、映画の冒頭で描かれていたゴミ処理場での出来事が優の足を引っ張る……。
この後半の展開は緊張感がハンパない! 生きていくために仕方なくやっていたことが、優の幸せを奪おうとするのです。それがもうやるせなくて……。
正しく生きて幸せを掴めれば、それに越したことはありません。でも世の中には育った場所、家庭環境によって、正しく生きたくても生きられない人もいるんだという現実を突きつけられている気持ちになりました。
この映画は犯罪に対してきっちり落とし前をつけていますし、負の連鎖を認めているわけではありません。しかし、貧困・格差社会・同調圧力など、今、まさに社会で問題視されていることがギュッと凝縮されているのです。
観ている間、緊張したり、胸が痛くなったりするのは、本作に「人ごとじゃない」と思わせる力があるからなのかもしれません。
【横浜流星、代表作を一新!】
優を演じた横浜流星さんは、主人公の生き様を生々しく見せて圧巻! 映画『流浪の月』(2022年)を観たときも思いましたが、悪を演じても複雑な内面や悲しい性の表現しているので、どこか惹かれてしまうんですよね。
本作では、運命に人生が狂わされていく青年を渾身の芝居で見せて、作品ごとに代表作を塗り替えていく横浜流星さんの底力を見た気がしました。
最高の輝きを放っている横浜流星の “いま” を見られる作品、ぜひ劇場で彼の芝居を大スクリーンで堪能してください。
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
『ヴィレッジ』
(2023年4月21日全国公開)
監督&脚本:藤井道人
出演:横浜流星 黑木華
一ノ瀬ワタル 奥平大兼 作間龍斗/淵上泰史 戸田昌宏 矢島健一/杉本哲太 西田尚美 木野花/中村獅童 古田新太
コメントをどうぞ