【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、河合優実さん主演映画『ナミビアの砂漠』(2024年9月6日より公開)です。

第77回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した作品。毎日が退屈で仕方がない自由奔放なヒロインは、トラブルメイカーでもあるのですが、そんな彼女がとても魅力的な作品なのです。

では、物語から。

【物語】

毎日つまらないとやり場のない感情を抱えている21歳のカナ(河合優実さん)。やさしいけど退屈な彼氏のホンダ(寛一郎さん)から自信家で刺激的なハヤシ(金子大地さん)に乗り換えて、新しい生活をスタートします。

しかし、ハヤシともギクシャクすることが増えていき……。

【生々しいカナの日々から目が離せない】

とにかくヒロインのカナが強烈でした。つまらないときは不機嫌、興味があるときはそのことに向かっていく、誰がなんと言おうと自分を貫く! 彼女の行動は全て本能の赴くままなんですよ。

冒頭、友だちに呼び出されてカフェで会話するシーン。

友だちの話が退屈すぎて「へ〜そうなんだ」くらいしか返さないし、ホンダよりもハヤシのほうがおもしろそうだと思うと、ホンダに黙って去ってしまう。

正直やりたい放題すぎて、最初は「この子、大丈夫か?」と思うけど、次第に自由に行動するカナがめちゃくちゃうらやましくなるんです。

【承認欲求なんて関係ない生き方】

SNSの発達で誰かに承認されたい欲が止まらない人が増えている時代、でもカナの生き方はそんな時代を逆行しています。人にどう思われようとかまわない。認められたいと思わないんですね。だから恋人にも気に入られようとはしない。

ハヤシとカナはよくケンカするんですが、壮絶な肉弾戦なんですよ。これはすごかった! どちらかが一方的に暴力的に支配しようとするDVではなく、お互いに一歩も引かない取っ組み合いの大ケンカ。

最初はハラハラするけれど「これもひとつの愛情表現かも」と思えるし、どこか爽快でもあるんですよね。お互いに遠慮がなく、いい顔をすることなく、伝わらないときはバーンとぶつかり合う。

やっぱり「子どもか?」と思ったりもするけど、だからこそうらやましく見えるのかも。発散するって気持ちいいですからね。

【河合優実の魅力が止まらない!】

連続ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS)で全国区になった河合優実さん。

映画界ではだいぶ前から注目の女優でしたが、映画『あんのこと』での熱演に続いて、本作も素晴らしく、2024年の映画賞レースで注目されること間違いなし!

何より、キャラクターを理解し、血を通わせてく力がすごい。本作でもカナの体温まで感じられるような生々しさがあり、だからこそグイグイ惹きつけられるのです!

カナのように生きるのは難しいと思います。だからこそ、劇場で自由奔放に振る舞うカナを見て、大いに刺激を受けていただきたいです!

執筆:斎藤香(C)Pouch
Photo:(C) 2024「ナミビアの砂漠」製作委員会

ナミビアの砂漠
(2024年9月4日より全国ロードショー)
監督・脚本:山中瑶子
出演:河合優実、金子大地、寛一郎、新谷ゆづみ、中島歩、唐田えりか、渋谷采郁、澁谷麻美、倉田萌衣、伊島空、堀部圭亮、渡辺真起子