【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、松竹創業130周年の記念作『TOKYOタクシー』(2025年11月21日公開)です。演出は名匠・山田洋次監督。主演は大ベテラン俳優の倍賞千恵子さん、そして木村拓哉さんがタクシー運転手役で出演!

試写で鑑賞したのですが、タクシー運転手(木村さん)と乗客のマダム(倍賞さん)のふれあいがとても温かくていいんですよ〜。では、物語から。

【物語】

娘の音大の付属校への推薦入学が決まったタクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉さん)。生活費はもちろん、入学金などに大きなお金が必要になり、とにかく働くしかない!と頭を悩ませていました。

そんな中、東京・柴又から神奈川の葉山の高齢者施設に高野すみれ(倍賞千恵子さん)を送るという依頼を受けます。85歳のマダムはおしゃれで上品。彼女は「東京の見納めに、寄りたいところがあるの」と、浩二に寄り道を依頼。

移動の車中で彼女は自身の人生を語りだすのです。

【木村拓哉がフツーのお父さん役で光る!】

木村さんが山田洋次監督の映画に出演するのは『武士の一分』以来、19年ぶりだそう。

木村さんといえば『グランメゾン東京』の凄腕シェフ、『教場』の鬼教官など、特別な力とオーラのあるキャラクターがバシっとはまるイメージだったのですが、本作で演じる浩二は平凡なタクシー運転手。

妻の薫(優香さん)から「音大は学費が高いのよ!今年は車検もあるのよっ!」とたたみかけられて「なんとかするよ」というものの、なんとかできる額じゃなくて「どうしよう」と困り果てている男なんですよ。

そんなフツーのお父さん演じる木村さんですが、やっぱりかっこいい。フツーのお父さんとして生活感あふれる家にいたり、タクシーを運転していたりするのがいいんですよ〜!

強烈なキャラクターじゃないのにあふれるスターの存在感……さすがです。マダムすみれの願いを聞き入れて、ちゃんとエスコートして、ってもう王子様でしたよ。

【倍賞千恵子さんもイメージ一新!?】

すみれを演じる倍賞千恵子さん。私、倍賞さんがド派手でキラキラした女性を演じているのを見たのは初めてかもしれません。というのも、ずっと『男はつらいよ』シリーズで寅さんの妹・さくら役を演じられていたので庶民派なイメージあったんです。

この役のファッションを決める際、山田監督から「挑戦的な髪型と衣装にしてほしい」とリクエストがあったそう。そして倍賞さんも「私自身もこのような役は初めて」と語っています。倍賞さんにとっても、マダムすみれ役は挑戦だったのですね。

でも、本作のマダムすみれはセレブの華やかさがありつつ、倍賞さんのおだやかで温かい魅力も垣間見られて素敵でした。街ではしゃいでいる姿なども可愛いくて、いい年の重ね方をされていると、憧れちゃいましたよ。

【東京の街がふたりのドライブを盛り上げる】

すみれは「東京の見納め」と運転手の浩二をあちこち振り回しますが、青山・外苑前の銀杏並木がとても綺麗なこのシーンはちょっとした東京&横浜観光気分を味わえます。

山田洋次監督が映し出す東京。正直オシャレさはありませんが、生活感あふれる普段の東京の姿が車窓から見えて、そこがまたいいんですよ。マダムすみれと一緒にタクシーに乗っているような気持ちになれましたよ。

タクシー運転手とマダムすみれの1日の物語の中に、1人の女性の人生が描かれ、そして最後には浩二の家族に奇跡が……。何が起こるのかはぜひ劇場で見てたしかめて。

『TOKYOタクシー』で、木村拓哉さんのフツーのかっこよさにうっとりしながら心ポカポカになってください。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会

TOKYOタクシー
2025年11月21日(金)全国ロードショー
原作:映画「パリタクシー」(監督 クリスチャン・カリオン)
監督:山田洋次
脚本:山田洋次 朝原雄三
出演:倍賞千恵子 木村拓哉
蒼井優 迫田孝也 優香 中島瑠菜
神野三鈴 イ・ジュニョン マキタスポーツ 北山雅康 木村優来
小林稔侍 笹野高史