30秒や60秒というごく短い時間の映像で、視聴者に商品をできる限り印象づける。CMにはそんな使命があるゆえに、「そこまでやるか!」とつっこみたくなるような、過剰なまでに力のこもった映像作品が往々にして登場するものです。

今回ご紹介するCMは、カナダでこの8月から放映されていたボールペンのCM。フランスに本社を置くメーカー・ビック社による広告なのですが、これが予想をはるかに超えるインパクト! 

舞台は、北朝鮮をモデルにしたと思しきアジアの国、そして将軍様らしき男の執務室。薄汚れた服を着た3人の男たちが、偉そうな将軍様の前に立っています。後方の壁には、将軍様本人の肖像画。

彼らは政治犯やスパイの容疑者なのでしょうか。将軍様は男たちの写真がついた書類に目を通しながら、直々に死刑を言い渡していきます。

2人の男に死刑が言い渡されたあと、絶望の表情を浮かべる3人目の若い男。同じように書類に目を通す将軍様ですが、今回は「おや?」と見直してから、優しげな顔で言い渡します――「赦免」。男はギリギリのところで、絶望の淵から救われたのです!

将軍様は赦免用の書類にサインをしようとするのですが……。

タイトルを「ビクテーター」(ビック+ディクテーター〈独裁者〉の造語)といい、なんとなく現在公開中のバカ映画『ディクテーター』(サシャ・バロン・コーエン主演)を連想してしまうこのCM。シリアス調から急展開を見せるシナリオに、重厚な雰囲気を醸し出す小道具の数々。さらにはかの北の国っぽい音楽と、その熱のこもった作り込みようは注目です。

そして、こんなに細部まで作りこんでおきながら、扱っている商品はペンですよ、「ボールペン」!「ペンの広告を作ってね」というクライアントの依頼から、ここまでトンだ映像作品を仕立てあげたクリエイターさんには思わず感服。ひとりスタンディングオベーションを贈ることにします!

ただ残念なことに「人種差別だ」といった内容のクレームがいくつかあり、ビック社はこのCMの放映をやめてしまったとのことです。ビック社によると男たちが話している言葉は「各言語の逆さ言葉から作った無意味なもの」だそうですが、将軍様の押すハンコの字はどう見てもあの言語……(意味のない文字列のようですが)。寸止めはいいけどモロ出しはアウト。パロディというのはなかなか難しいものですね。

(文=纐纈タルコ)

参照元:YouTube.com(http://goo.gl/XQCjq

▼写真と、罪状などを記したと思しき書類

▼将軍様は表情ひとつ変えず、判を押す

▼「処刑(Condemned)」。言い渡された男は悲愴な表情

▼次は俺だ……絶望の色を浮かべる3番目の男

▼判決は、意外なことに「赦免(Pardoned)」……!!

▼本当に……? にわかには信じられない様子

▼将軍様は赦免用の書類にサイン

▼だがしかし、なんだかペンがちゃんと書けない

▼「おい、ペンよこせ」

▼側近も持っていない

▼と、そこに将軍様の妻とおぼしき女性が登場。服もスタイルも珍妙

▼なにか約束していたらしく、時計を指してしきりに咳払い

▼うわーこいつ怒らせると面倒なんだよなあ……といった表情の将軍様

▼適当にハンコを押して「(じゃあもういいや、面倒だし)処刑。」

▼え、えっ……!?

▼そして全員刑場へ。「信頼できるペンを持っておこう by BiC」

▼それでは実際にCMを見てみましょう

▼おまけ:オランダの保険会社による北朝鮮ネタCM。保険に入っておくと安心、だって。