「社長だって決断を下すときはいつも不安。でも不安な顔をしたら部下を不安にさせてしまうから自信を持って言わないとならない。決断は直感的。どっちを選択してどうなるかなんて将来のことは誰にもわからないんだ」
大手コンビニエンスストア「ローソン」の代表取締の新浪剛史社長がこう話すと、一瞬キラリと輝いた学生たちの表情。
“立派な大人も悩みながら生きているんだ” ――人生の大きな分岐点に立たされた青春真っ盛りの学生たちにとって心強いメッセージだったに違いないです。
宮城県仙台市の仙台泉文化創造センター『イズミティ21』で19日、被災地3県(岩手県宮城県、福島県)の高校生や関係者らなど約747名(うち学生247名)が、ローソン主催の『夢を応援基金“スペシャル講演&ライブ2012”』に集いました。
イベントでは、ローソンが企画する奨学金制度『夢を応援基金』の受給者を代表し、4人の学生を壇上に招いてのトークセッションとミニライブの2部構成。
第1部の「学生時代」をテーマにしたトークセッションでは同社長や玉塚元一 副社長のほか、第2部でミニコンサートを行った音楽プロデューサーの小林武史さんや歌手の一青窈さんらも登場。同4人の学生たちが、自身の悩みや会場で聴講している学生らに託された「将来への不安」などの質問を、人生の先輩たちに問いかけました。
――将来の選択これでいいのか……立ちはだかる学生の苦悩
まず最初に投げかけられたのは、「やりたいことが見つからないのに、このまま進学して良いのだろうか」という質問。
同社長は「学生時代なりたいと思っていても、まったく違う職業に就く人がほとんど。自分自身、医者や弁護士を目指したこともあったが、結局は思いもしなかったコンビニの社長をしているくらいだ」と説得力あり余るアドバイス。
逆に、「職業を決定してしまって良いものか」との悩みには小林さんが回答。「何かを目指して頑張るのは大切なこと。目標が変わっても努力は生きる。例えばリーダーになりたいとか人を助けたいとか、大きいフレームで考えよう。漠然とした目標に真剣に臨み、積み重ねることでチャンスが必ずやってくる」と話します。
また、「努力しないと運命にも出会えない」と副社長。さらに「一生懸命やっている人には機会が増える。前向きに努力することが大切。運はみんな同じだけある。うしろ向きに考えているとダメなんだ」と熱く語る社長は、新入社員に『巨人の星』を見ろとアドバイスするほどの熱血漢。気になった皆さんは、この熱血マンガを一度読んでみては?
なかでも最も勇気が出るのは一青さんの経験談です。
慶應義塾大学環境情報学部卒という立派な経歴を持つ彼女も、入試の際に受けたAO入試(自己推薦入試)で面接官の前で歌を熱唱した際、「キミのような人はいらない」と言われたのだとか。かなり落ち込んだそうですが、結果は合格。また、卒業して歌を売り込みに音楽系の会社などへ行った際も「いらない」と言われ続けたそうで、26歳という業界では遅めのデビューを果たすまでに相当な苦労をしたようです。
それでも、前に進み続けた結果が今の一青さんを見れば一目瞭然。学生のみなさん、努力と継続がいかに大切かということを実感できたのではないでしょうか。
――被災を通してどのように生きていくか
「何が正しくて間違っているのか判断するのが難しい時代」と話すのは小林さん。「東北は大変なときだがクリエイティビティを受け入れる余白がたくさんある。現実を捉え直すチャンス。小さく縮こまらず自分を保持する命を一生懸命生きて欲しい」と、一言ひとこと噛み締めるように話す。
また、人間関係の難しさについて一青さんは「批判をするのは簡単。話し合って一緒に歩いていく方法を模索するのが大切。一人ひとりが合わない人と話し合い、分かり合うのは大切なこと」と話し、また、「どんな言葉も心に響かない瞬間がある。そんなときはお手紙を書いて送ってください」と、はにかみます。これは、第2部で彼女が心を込めて熱唱した『ラブレター』という歌にどこか通ずるところがありそう。
トークショーに参加した学生のひとり、岩手県陸前高田市の高田高校に通う福田順美(なおみ)さん(18)は、「震災のあと、町の復興の力になりたくて市役所職員になりたいと思った。今後も目標を変えずに、自分のためにも町のためにも頑張りたい」と、まだ甚大な津波被害が色濃く残る地元を復興へ導いていこうと意欲満々です。
10代後半。人生の選択を迫られるなか、むしろ福田さんのように明確な目標を持つ学生は稀。とはいえ、決定している人もそうでない人も、人生の先輩たちのアドバイス通りがんじがらめにならず型にはまらず、どういった方向の仕事がしたいのか、どんな人間になりたいのか、そんなざっくばらんな目標を持つことが何より大切。混沌とした10代を過ごした記者も、同感の意見です。
(取材、写真、文=池田廉)
▼左からローソン 新浪剛史社長、玉塚元一 副社長
▼音楽プロデューサーの小林武史さん、歌手の一青窈さん
▼テーマが『学生時代』なので、各々の高校時代の写真も公開された
▼会場の様子
▼トークショーに参加した高校生たち。
右から櫻庭周治さん(東北高校1年)、伊藤優星さん(仙台高専3年)、福田順美さん(高田高校3年)、藤本朱子さん(東陵高校3年)
▼真剣に話に聞き入る被災地の学生たち
▼聴講者からも質問を受け付ける
▼第2部のライブの様子(この様子は後日、記事にてつづく)
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