[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは5月12日公開の『レンタネコ』。『かもめ食堂』『めがね』『トイレット』など、独特の作風で人気の荻上直子監督の新作です。レンタネコとは、猫をレンタルしているヒロインと出会った人々の心温まるエピソードを積み重ねていく作品。これまでの荻上作品同様に、大事件が起こるわけでも、大逆転があるわけでもない、淡々と流れる時間の中で、人間を綴った映画となっております。

古い日本家屋で、祖母の仏壇を守りながら暮らしているサヨコ。同居しているのは猫たちです。彼女はその猫たちを、孤独を抱えて生きている人にレンタルする仕事をしています。彼女は猫好きの老女、単身赴任中のサラリーマン、話し相手のいないレンタカー屋の女性などに1000円で猫をレンタルしていくのです。

犬派か猫派か? なんてよくいいますが、荻上監督は猫好きが高じてこの映画を作ったと語っています。

「寂しいとき、猫がいたことで救われたことがあったので、猫を貸してくれる人がいたらいいのに……と思ったことと、河原でホームレスの人が猫と楽しそうに遊んでいるのを見て、その風景と猫を貸すという物語が結びついたのがきっかけです」

この映画を見ると「絶対に猫好きが作った映画だ」というのがわかります。猫に何かをさせようとする演出がないのです。アカデミー賞受賞作の『アーティスト』に出演している子犬は、達者な演技を見せていますが、そこが猫と犬の違うところ。たぶん猫にあれをやらせようとしてもできないのではないかと……。猫は気まぐれ、エサやトイレなど世話をやかないとダメな部分はあるけれど、基本「かまわないで」というスタンス。この映画の猫たちも何をするわけでもなく、ただそこにいるだけなのです。過剰な演出をしないところ、猫に無理をさせないところに猫好き魂を感じました。

「猫と同じ目線で生活している演出を心がけました。猫は基本勝手に生きている。年中かまってやらなくてもいいし、こっちがかまってほしいときは無視される……」と、監督も語っています。猫が猫としてそこにいることを監督は大切にしたのでしょう。

だからといって、この映画は猫ドキュメンタリーではありません、ヒロインと出会った人々が少しだけ自分を変えていく姿を描いた人間ドラマになっています。
猫に癒された経験があり、その思いをお裾分けしたくて作った映画と言う荻上監督。そういえば、この映画のヒロインのサヨコは、猫をレンタルすることで、貸した人の心を癒したり、新しい一歩をサポートしたりします。でも映画を見終わって思うことは「彼女も猫だったのでは?」ということ。

まるで寓話のように素敵な映画『レンタネコ』。現実と地続きのようなこのファンタジーは、猫好きはもちろん「ちょっと疲れちゃった」という人に心地よい時間を与えてくれます。猫飼っている人なら愛猫に会いたくなるし、飼ってないけど猫好きな人なら、猫カフェに行きたくなっちゃうかもしれません。

(映画ライター=斎藤 香


映画『レンタネコ』
5月12日公開
脚本・監督:荻上直子
出演:市川実日子、草村礼子、光石研、山田真歩、田中圭、小林克也
(C)2012 レンタネコ製作委員会