「中国滞在中は嫌な目に合うこともしばしば」。その反面、実は同時に日本で生活しているだけではなかなか得難い「人の優しさ、温もり」に触れる機会も多いのです。

そう話すのはロケットニュース24中国特派員のH氏。2004年に中国で開催された「AFCアジアカップ」の決勝戦では、偽チケットをつかまされスタジアムに入れなかった中国人たちの怒りは治まらず、日本が中国に勝利したことを皮切りに手がつけられぬほどに暴徒化。ちょうどその場に居合わせたH氏は、身の危険を切に感じたそうです。

それにも関わらず今回の「未曾有」の大規模デモが予想されていた18日の早朝、取材のためと本人たっての希望で北京へ渡航。そして、思いもよらぬことにデモ行進にまで参加(いや、潜入)するハメになってしまいました

危険だと知りつつなぜ中国へ渡ったのでしょう。彼を突き動かしたものは何だったのか。その理由を彼はこう話します。

「アジアカップのとき、日本では中国人みんなが反日になってるみたいに報じられていると聞きました。本当は全然そうじゃなく一部の人々です。だから今回も確かめたかった」

彼が「(反日は)一部の人々」と判断するに至った彼の経験談のひとつは次のようなもの。

「スタジアム付近のレストランに逃げ込んだとき、店員が目立つ席にいると危ないからとコソコソとエスコートしてくれて厨房すぐ近くの特別席(周囲から見られない個室に近い席)に通してくれたんです。中国人の客たちは、店内のテレビのサッカーに夢中になって殺気立ってたから」

なかには「キッ!」と睨みつけたり何か言ってきたりするスタッフもいたそうですが、その一方で彼らを制して日本人であるH氏を守ってくれるスタッフがいたことで一時ではあるけれど難を逃れることができたそうです。

■報道だけではわからない、日本人にも粋なはからいをする中国人の存在
これまでH氏が中国滞在中に体験してきた中国人による「粋」なはからいのエピソードの数々は、聞いているこちらも目頭が熱くなるものが多い。今回もそんなドラマを密かに期待しつつの滞在のようですが、人々が冷静さを失っている大規模デモの最中、彼はどんな光景を目の当たりにし、中国人からどのような待遇を受けたのでしょうか。

―― 中国滞在お疲れさまです。18日のデモはどんな様子でしたか? 
(以下、H氏) 日本領事館周辺には、かなりの人数が参加。お参りみたいにひっきりなしに来ているという感じで、駅を降りると警察と軍隊とデモ参加者がうじゃうじゃしていました。道路は封鎖されています。軍隊や警察も配備されており、柵があるので一度列に入ったら途中で抜けられない。否応なしに、まるまる一周私も周ることになりました。ほかに日本人の姿は見当たらなかったと思います。

日本大使館にペットボトルが次々と投げられていて、それを警察も軍隊も黙認しているのには違和感を抱きましたが、それ以外は至って普通の「デモ」でした。日本で行われているデモと同じです。特に暴動に発展するわけでもなく、最低限の秩序は守られていました。「参加することに意義がある」みたいな雰囲気でした。

―― 身の危機を感じることはありましたか?
デモでは日本人だとバレたら危険だったと思います。みなエキサイトしているので。また、そのような「場」だったので。しかし、このデモ会場以外の場所で危険を感じることはありません。至って普通の中国。優しくされたことも山ほどあります。

デモ以外の場所では、日本人だと知られても特にこれといって嫌な思いはしませんでした。私の場合は、ですが。気をつけることに越したことはありませんが、日本人だとわかって危害を加える中国人は、「そういう思想の過激な中国人だった」ということだと思います。すべての場所が危険で、すべての中国人が危険、というわけではもちろんない。

―― H氏が思い描いていた地元住民との「イキ(粋)」なコミュニケーションはありましたか?
ありました。初日にして多くの「イキ」に巡りあいましたよ。私が道に迷いに迷って、リヤカーひっぱってる配達人のおにーちゃんに道を聞いたら、わざわざ近くまで案内してくれました。それも荷物をほったらかして! また駅では、目的地までの行き方がわからなくて近くにいた駅員の集団に聞いてみたら、おばちゃんの駅員が英語でわかりやすく教えてくれました。にっこりして。で、私が納得すると、まわりのおじさん駅員が「すげー、英語で旅行者に説明しきった!」みたいな感じで尊敬。おばちゃんは「えっへん」みたいな感じでした。

ほかにも夜ケンタッキーで食べ物を買ったら4元のお釣りが。地下鉄で使いたいので硬貨でもらえないか? と言ったら、すべてのレジを調べてくれました。一生懸命やってくれました。コンビニで買ったアイス用のスプーンが欲しかったので、スプーン欲しいとリクエストしても、ニコニコして応じてくれました。タクシーのドライバーもフレンドリーでした。iPhoneで景色撮影してたら「すげー携帯だな! iPhone? これがiPhone! ほ、ほう! おれには難しいわ」とか、ニコヤカなムード。

と、初日にして中国人の温かさに触れたH氏。デモをやっていることすら知らない中国人に出会ったときは、さすがに衝撃的だったそうです。ちなみに、コミュニケーション方法は、身振り手振りと片言の中国語とのこと。言葉がすべて通じなくても人の温かさは十分伝わるんですね!

「政治的には納得できないし許せないけど、中国人は好きです。心あたたかい中国人、粋な中国人は、たくさんいます。むしろそのほうが多い。私の印象では」

現地では関係のない日本人が暴動に巻き込まれるケースも相次ぎ、当分は予断ならぬ状況かもしれません。その一方で、粋な中国人が多いことも忘れたくないものです。

(取材、文=メル凛子/写真提供=H氏)