[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、2013年4月5日公開の映画『ヒッチコック』です。ミステリー映画の帝王と言われた名匠アルフレッド・ヒッチコック監督の代表作『サイコ』の制作の裏側と、ヒッチコック監督を支えたアルマ夫人との夫婦愛を描いたこの映画は、ヒッチコック監督の生涯を描いたものではありません。
でも、アラウンド60でも、決して守りに入らないチャレンジャー、ヒッチコック監督の映画への底なしの貪欲さ&ヒッチコック・サスペンスはどうやって作られたのか、私生活は? 素顔は? そんな好奇心を満たしてくれる映画に仕上がっているのです。
1959年、ヒッチコック監督作『北北西に進路を取れ』は大評判! しかし、映画への情熱が止まらないヒッチコック監督(アンソニー・ホプキンス)は、次の作品のアイデアを探していました。そのときヒッチコック監督は殺人鬼エド・ゲインの物語「サイコ」に惹かれ、映画化に取り組みます。アルマ夫人(ヘレン・ミレン)は支持しますが、映画会社は大反対! 「大量殺人を犯した殺人鬼のおぞましい物語」と出資を断れてしまうのです。どうしても映画化したいヒッチコック監督は、自分の大邸宅を担保に自己資金で映画化することを決めますが、トラブルは続出し、映画化は難航してしまいます……。
いまでこそミステリー&サスペンス映画の金字塔として傑作の誉れ高い『サイコ』ですが、こんなに製作過程でトラブルが続出していたとは驚きです。またこの映画の製作中に夫婦の間に亀裂が入りかかっていたとは……。
ヒッチコック監督が映画『サイコ』の撮影に苦悩しているときに、アルマ夫人は友人の脚本家の男性との関係に時間をさいていたのです。不倫とまではいきませんが、天才監督の妻でいることの辛さから、つかの間、解放されたかったアルマ夫人の気持ちを思うと、あまり責められないような気も……。またヒッチコック監督自身もブロンド女優にのめりこみ、追いかけて、怖がるキャストの女優もいるなど、意外な一面を映画『ヒッチコック』は描いています。
足元がグラつく夫婦関係、撮影現場のトラブル……。そんな中で、映画『サイコ』を救ったのは、やはりヒッチコック監督の才能とアルマ夫人の賢いサポートでした。彼女はもともと優秀な編集者であり、ヒッチコック監督の作品にも大きな影響をもたらせた人物。アルマ夫人が映画に関わるようになると、映画『サイコ』の現場がどんどん活気づいていくのです。ヒロインが殺されるシャワーシーンの製作裏話など、もう記者はワクワクが止まりませんでしたよ!
ヒッチコックと言う名前が一人歩きをしていたけれど、ヒッチコック映画は、夫婦が二人三脚で作り上げたものというのが、この映画を見るとわかります。クリエイター夫婦が葛藤しながらも1本の傑作をこの世に送り出す姿が、映画『ヒッチコック』では描かれているのです。
もうひとつ驚いたのは、ヒッチコック監督は優秀な宣伝プロデューサーでもあったということです。完成した映画『サイコ』を公開するにあたって、ヒッチコック監督は劇場側に協力してもらい、あるトリックを仕掛けるのです。思わず観客が「見たい!」と思い、劇場に足を運ぶその仕掛けとは?
やはりミステリーの帝王の頭の中はアイデアの宝庫、このエピソードもヒッチコックの偉大さを物語っています。そして難産だった映画『サイコ』は、ヒッチコック監督作で№1のヒット作となるのです。
ちなみにヒッチコック監督は、映画『サイコ』で、5度目のアカデミー賞監督賞候補になりましたが、受賞は逃してしまいました。60年度の監督賞は『アパートの鍵貸します』のビリー・ワイルダー監督なので、このときは「ライバルが強すぎた」とも言えますが、結局、一度もアカデミー監督賞を受賞しないままこの世を去ってしまったのです。
いまだヒッチコック監督を超えるミステリー&サスペンスの巨匠は生まれていないことを考えると、なんで受賞させなかったんだろうなと。映画『ヒッチコック』を見ると、こんなに映画愛が強くて偉大な監督にアカデミー賞を与えなかったことは、アカデミー賞の汚点かも!? とさえ、思ってしまいましたよ。
(映画ライター=斎藤香)
『ヒッチコック』
2013年4月5日公開
監督:サーシャ・ガヴァシ
出演:アンソニー・ホプキンス、ヘレン・ミレン、スカーレット・ヨハンソン、トニ・コレット、ダニー・ヒューストン、ジェシカ・ビール、マイケル・スタールバーグ、ジェームズ・ダーシーほか
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