[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップする映画は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』です。『マッドマックス』の名前は知っているけど「アクション好きな男子向けでしょ」と言う女子のみなさん、いやいや、今回は違います。あのシャーリーズ・セロンが、主人公のトム・ハーディと並ぶ存在感を発揮しているのです。もはやW主演じゃないかと思うくらい。おそらくシリーズで一番、女子受けしそうな予感がする最新作です!
【物語】
資源を独占している支配者ジョー(ヒュー・キース=バーン)に捕らわれたマックス(トム・ハーディ)は、ジョーの右腕だったフュリオサ(シャーリーズ・セロン)とジョーの奴隷の女たちを引き連れて逃走。奴隷の女のひとりは妊娠しており、ジョーは自分の後継ぎへの執着心から、執拗にマックスたちを追跡します。
一方、フュリオサは砂漠の向こうに存在する緑の大地を目指していたのですが……。
【新しい『マッドマックス』の誕生!】
『マッドマックス』の第一作目は1979年。当時まだ無名だったメル・ギブソンを大スターにした作品です。その後、同シリーズ2作品が作られましたが、今回の最新作は何と30年ぶり! 新しいマックスは、トム・ハーディというベストなキャスティングで復活です。
「でも前の3作品を見ていない」というあなた。まったく問題ありません! というか続き物ではなく、新しい『マッドマックス』の誕生というイメージが強いので、シリーズの知識がなくても楽しめるからです。
また、この映画は言葉を超えて理解できる作品です。ジョージ・ミラー監督はこう語っています。
「1作目の『マッドマックス』と、4作目の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を引っ張っているアイデアのひとつは、世界のどこでも字幕なしで理解できる映画を作るというアルフレッド・ヒッチコックの考え方なんだ」
そう、この映画、セリフはあまり多くありません。すべて描写で物語っているのです。素晴らしい監督は描写だけで何が起こり、キャラクターたちは何を感じているのかを伝えることができます。アクション映画というのは本来そういうものかもしれません。
【シャーリーズ・セロンの強さ&美しさ】
男くさい印象が強い『マッドマックス』シリーズの中でも、今回、主人公に負けない活躍を見せるのがフュリオサ役のシャーリーズ・セロン。スキンヘッドの女戦士として、常に背筋をピンと張り、女性たちを守り、仲間を引っ張り、巨大な戦闘車ウォー・タンクを運転します。その姿のなんとかっこいいことか!
切れ目ないアクションシーンをこなしながらも、やがてフュリオサが感じることになる絶望、そこから立ち上がる姿は胸にグっときます。アネゴというよりアニキみたいなたくましさです。マックスとは信頼関係を結ぶようになりますが、そこに愛はありません。
シャーリーズ・セロンはこう言っています。
「ふたりは恋に落ちるわけでもなく、友達にもならない。荒野ではそんな余裕がないから」
フュリオサは女であることを武器にしないどころか、周囲に意識さえさせませんからね。ただ目的を達成するために生きる人間。でも、ただ強いだけじゃない、情も深いんです。無表情な中に人生を垣間見せる瞬間もあって、彼女の演技は本当に素晴らしいです。
【ロックのようにアクションを演出する】
ボスのジョーは周囲を洗脳して支配力を高めているのですが、この悪役が抜群に強く恐ろしいのも面白さの鍵。残酷で強欲なボスですが、ヘビーメタルのロックミュージシャン的な面白さもあるのです。部下は戦闘車でギターかき鳴らしているみたい……と思っていたら、ミラー監督がこう言っていました。
「僕はアクション映画を一種の視覚的な音楽と捉えている。熱狂的なロックコンサートとオペラの中間だ」
やっぱり、思ったとおりでした! ヴィジュアルはロックですが、砂漠を舞台にした野性的なオペラのようでもあり、その融合と言えるでしょう。
とにかく2時間、ずっと砂漠で戦闘車が追いかけっこしている映画なのですが、まったく飽きません。濃いキャラクターたちの行く末をヒヤヒヤして見守りつつ、アクションのバリエーションの豊かさにうなります。ジョージ・ミラー監督、御年70歳。その演出はまさに匠の技。絶叫マシーン級のスリルを、ぜひ味わってみてください。
執筆=斎藤 香(C)Pouch
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
2015年6月20日より、TOHOシネマズ新宿、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
監督:ジョージ・ミラー
出演:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルト、ヒュー・キース=バーン、ロージー・ハンティントン=ホワイトリーほか
(C)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
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