「おせいさん」こと田辺聖子サンは、大阪を代表する女流作家。大阪弁で書かれた小説やエッセイには、今でいう “カワイイ” がいっぱい詰まっていて、時代を越えてたくさんの女性に読み継がれています。
膨大な数の作品があって、どれが一番おもしろいかなんて決められない! でも、やっぱりハズせないのは、ハイミスものの代表作『苺をつぶしながら』じゃあないかしら。
記者も大好きなこの小説に登場するのが、長崎堂の「クリスタルボンボン」。「おせいさん」の言葉を借りると、「オルゴールの音色をこまかく砕いた」みたいなお菓子なんだって。う~ん、どんな見た目で、どんなお味なのかしら?
■3色のボンボンにうっとり
「クリスタルボンボン」は、昭和62年ごろから販売されている砂糖菓子。エレガントな箱を開けると、白、ブルー、ピンクの3色のボンボンがぎっしりと入っています。
ビーズのような、小さなボンボンを口に放り込んでかめば、中のリキュールが溶け出して、うっとりしちゃうぐらい甘美なおいしさが広がるの。
色によって味が違い、白の「コアントローボンボン」は、オレンジの香りとまろやかな風味が特徴。ブルーの「アニゼットボンボン」は薬草アニスから作られたアニゼット酒、ピンクの「マラスキーノ」は桜桃から作ったマラスキーノ酒が使われています。
■ボンボンはひと粒ずつ、手作業で作られているのだ
記者が「長崎堂 心斎橋本店」を訪れたのは、5月中旬のこと。店舗は改装作業の最中で、臨時店舗にて「クリスタルボンボン」を購入。
臨時店舗には、男性スタッフの方と、「風情のいい美しいマダム」がいました。お二人の話によると「クリスタルボンボン」は、職人さんがひと粒ずつ、手作業で作っているとのこと。スポイトのようなもので、試験管の中にひと粒ずつ落とす……それをひたすら繰り返すのだとか。
大量生産することができない貴重な砂糖菓子、というワケ。「風情のいい美しいマダム」は、「あなた(記者のこと)が生きている間は作り続けられると思うから、安心してね」と。そういわれると、ファンとしてはなんだかホッとしちゃった。
■『苺をつぶしながら』愛読者のみなさんへ
勘のいい読者のみなさんは、もうお気づきのことと思います。そう、記者がお話をうかがった「風情のいい美しいマダム」は、『苺をつぶしながら』に登場するあのマダムなんです。
当時、マダムはまさか「おせいさん」だとは夢にも思わずに、宝物のオルゴールの話をしたんだって。そうして『苺をつぶしながら』の発売日、近所の奥さんがマダムのもとにやって来て、「田辺聖子サンの小説にのってるで~!」と教えてくれたそう。
ただいま店舗は改装中、だからマダムの宝物のオルゴールも、今はお休み中。7月3日にリニューアルオープンした暁には、またカフェスペースに置く予定とのこと。
「あのオルゴールは、私の宝物ですから」と微笑むマダム、年齢を聞いてビックリしちゃった。まるで少女みたいな笑顔なんですもの。ファッションも、すごくオシャレ。乃里子のいうところの老けるのと、「お婆ンくさくなる」のとはホントに別なんだって、そう思った次第。
どんな犠牲を払ってもオルゴールを手に入れたいと願った若き日のマダムのことを考え、『苺をつぶしながら』を書く田辺聖子サンのことを考えて、「クリスタルボンボン」をひとつ。口の中で弾けるのは、もしかすると乙女の浪漫なんじゃあないかしらん、なんて。
■店舗情報 『長崎堂 心斎橋本店』
住所:大阪府大阪市中央区心斎橋筋2-1-29
電話:06-6211-0551
営業時間:10:00~19:00
定休日:水曜
※~7月2日の営業時間等については要問い合せ
※掲載の情報やデータはすべて取材時(2013年5月)のものです
(写真・文=夢野うさぎ)
参考文献:『苺をつぶしながら』(田辺聖子著/講談社)
▼「クリスタルボンボン」1箱1050円
▼エレガントな箱に入っているのだ!
▼3種類の味が楽しめるよ
▼アニゼット酒のブルーが鮮やかな「アニゼットボンボン」
▼4月3日から店舗改装中。7月3日にリニューアルオープン
▼記者が訪れたときは煉瓦館ビルの地下1階で商品を受け取ったよ
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